第47話 ギルドクエスト
雲一つなくすっきり晴れた気持ちのいい朝だった。
ここが魔王城の近くだというのが嘘みたいだ。
まあ、魔王が魔王だという事自体がそもそも偽りだったわけだけれど。
それはさておき、そんな晴れ晴れとした天候に似つかわしくない雰囲気で、エリスが何だか朝から疲れているように見える。
よく眠れなかったのだろうか?
それに比べてルーシアさんは心なしかいつもよりも艶々して元気そうに見えた。
「ああ、良いものを見せていただきました」
「どうかしたんですか?」
「いえ、昨日の夜の事なのですが、ミリア様とピロロのどちらが姫様と一緒に寝るかでケンカになりまして、結局、姫様に叱られて3人で一緒に寝る事になったのですが、美少女3人の添い寝なんて、なかなか見られるものではありませんので、それはもう良いものを見させていただきました」
「元気そうね。ルーシア。こっちはそれどころじゃ無かったわよ。やっぱり、あのベッドに3人は無理があったわ」
「大体、このちびっ子が姉さまと一緒に寝るなんて言い出すから悪いのです!」
「だってピロロ、いつも姫さまと一緒に寝てるんだよ?」
「だから、それがおかしいと言っているのだ! ワタシの姉さまだぞ!」
「ピロロの姫さまだもん!」
「もう、あなたたち、朝からケンカはやめなさい!」
エリスが二人を叱りつけた。
「エリスの言う通りだよ。ケンカなんかしなくても3人で仲良くすればいいじゃないか」
「うるさいわ! 貴様は黙ってろ! 姉さまの妹はワタシ一人で十分なのだ。貴様もむかつくがそれと同じくらいこのちびっ子にも腹が立つ」
「何を小さな子相手にムキになってるのよ? ミリアの方がお姉さんなんだから、ミリアもピロロの事を妹だと思えばいいじゃない」
「それはそうですが……。わかりました。姉さまがそう言うのであれば努力します」
「わかったならいいよ。ミリアちゃん」
「誰がミリアちゃんだこのちびっ子! ミリア様と呼べ! 本当に何なのだお前は!」
「別にミリアちゃんで良いでしょ? ミリアの方こそちびっ子なんて呼ばずにちゃんとピロロって名前で呼びなさい」
「くううううう」
エリスにそう言われて、ミリアは苦虫を噛み潰したような微妙な表情をして唸っていた。
しかしピロロもミリアを相手にして全く物怖じしないのは凄いな。
「さあ、皆さん、お喋りはその辺にして、そろそろ出発しますよ」
ルークさんがそう言った。
なんだか修学旅行の引率の先生みたいだな。
昨日聞いたのだがルークさんはエリスとミリアの教育係をやっていたらしい。
つまり実際に先生だったという話だ。
そして、僕らはユーホスの街のギルドに足を運んだ。
ユーホスは元々城下町だったという事もあって、この国で一番大きな都市だという話だ。
ギルドも国全体の本部の役割を担っていて、建物も立派で掲示板に貼りだされているクエストの数も他の街より圧倒的に多かった。
掲示板を見てクエストを探していると、ミリアが上の方にあるひとつの貼り紙を指差しながらエリスに向かって言った。
「姉さま、これを見て下さい!」
「ええと、山奥の秘湯近くにサラマンダーが集団で住み着いてしまって、立ち入り禁止になって困ってるから、退治して欲しいってやつね。確かここって……」
「ええ。あの秘湯ですよ。放ってはおけません。これにしましょう」
「でも、いいの? サラマンダーって火を吐くからミリアの親戚でしょ」
「姉さまは、わたしを何だと思っておられるのですか!?」
「ふふふ。冗談よ」
なんだか、エリスとミリアがすごく楽しそうだ。
笑っている二人を見ていると自然とこちらも嬉しい気持ちになる。
そんなこんなで僕らはサラマンダーの討伐のクエストを受ける事にして、ユーホスから魔王城に向かう途中の山奥にある秘湯付近へと足を運んだ。
◆
『エターナル・フレイムフレア!』
炎属性のサラマンダーに対して、お構いなしに炎魔法をぶつけていくミリア。
高熱に耐えられるサラマンダーでもその耐性を上回る炎で焼き尽くせば倒せるという理屈はわかるけれど、本当にそれをやってのける事ができるのはミリアくらいだとエリスは言っていた。
「どうですか姉さま! 見ていただけましたか?」
ミリアがエリスに向かって得意気にそう言った。
「すごいじゃないミリア。本当に強くなったわね。でも、サラマンダーを炎で倒すのはちょっと効率が悪くない?」
「いいえ、姉さま。それくらいのハンデがあってちょうど良いのです」
結局、サラマンダーの数は5匹ほどだったが、ミリアがすごく張り切っていて、ほぼ一人で倒してしまった。
一匹一匹が前に戦ったドラゴンとそんなに変わらないくらいの強さに見えたのに、ミリアってやっぱり凄いんだなと、再認識させられた感じだ。
僕の出番がなくてちょっと拍子抜けしたところもありつつ、クエストは滞りなくクリア出来たし、ミリアもすっかり元気になったし、此処に来て本当によかったなと思う。
「さあ、姉さま、仕事も片付いた事ですし、あの秘湯にいきましょう! 今日はその為に来たのですから」
ミリアが言った。そうか、温泉の方が目的だったのか。
そういえば、ギルドで掲示板を見ていた時に、温泉の事を知っている風だったっけ。
「そうね。せっかくだし、入っていきましょうか」
エリスもそう言うので、僕らは山奥の秘湯で疲れを癒してから帰る事にした。
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