偉いってなんだ

@Teturo

第1話 ジーサンとの出会い

 俺、ケンタ。小学2年生だ。走ったり、給食を食べるのは大好きだけど、勉強は出来ない。授業中は死んだように大人しいけど、休み時間や放課後は生き返ったように元気になるなって、よく先生に言われる。


 通信簿を持って帰るたびに、カーチャンがため息をつく。

「偉い人になってもらわなくてもいいから、せめて普通の人になって欲しいわ」

「偉い人ってなんだ?」

「東大を出て、官僚になったり、大きな会社に務める人のことよ」

「普通の人って?」

「ウチのトーチャンみたいな人よ」


 給料は安いし呑んだくれだけど、浮気はしないし真面目だからねと、カーチャンは独り言を言う。トーチャンは苦笑いするだけだ。

「子供は元気が一番。さぁ、風呂に入ろう」


 ウチの風呂は外にある。薪を炊いて沸かす、五右衛門風呂だ。近くに小さい山があって、綺麗な川が流れている。東京の従兄弟が遊びに来るたびに、

「田舎ってすげーな」

 と感心する。東京の方が凄いと思うけど、まぁ、ここはここで良い所だ。


 最近、近所に知らないジーサンが引っ越して来た。ボサボサの白髪頭で白いチョビ髭を生やしている。鼻の頭が赤くて、いつも驚いたように目を丸くしている。俺が住んでいる地域は住人全員、親戚みたいなもんだから、知らない大人が住み着くことは珍しい。

「あそこの家には近づくんじゃないよ」

 カーチャンは言う。ジーサンは得体の知れない風貌だったし、何週間も家を空けることがあった。何だか怪しい外人も出入りしてるらしい。

「あそこの家の近くで早朝に黒人の大男を見て、駐在所に電話を入れた人がいるらしい」

「いつの時代の話だ?」

 カーチャンの話にトーチャンは眉を上げた。


 よく晴れた日。俺は一人で川遊びをしていた。今の時期は上手くするとヤマメやイワナが取れる。大人は釣りで取るが、俺たちは素潜りとヤスで取る。

「この川ガキが! 漁業権を知らんのか!」

 たまに他所から来た大人に怒鳴られるが、そんなもん知らん。大体、俺たちを追い回す大人で、釣りの上手い奴なんて見たことがない。そう言う奴に限って、タバコの吸い殻や、弁当カスをそこらに捨てて行くんだ。

「聞いているのか! どっかへ行け」

 今日のメガネの大人はしつこかった。河原から石を拾って、こちらに投げつけて来る。きっと全然釣れずに頭に来てたんだろう。


 カツン!


 何個目かの石が、俺の水中眼鏡に当たった。メガネは更に大きな石を拾って、俺に投げつけようとしている。ちょっとヤバイ。


「まぁまぁ、そんなに怒らなくても」

 顔を真っ赤にしているメガネに声をかけたのは、白髪頭のジーサンだった。何かを小声で話すと、メガネは、そこらに唾を吐いて、どこかへ行ってしまった。


「もう大丈夫だから、一度上がって来なさい」

 仕方がないから、河原に上がった。確かにメガネが居る時に上がったら、追いかけ回されていたかもしれない。

「ありがとうございました」

「おお。素直な子だな。何か獲れたのかい?」

「これ!」

 腰につけたビクをジーサンに差し出す。

「ヤマメか。綺麗だな・・・」

「綺麗だし、美味しいよ!」

 そうかそうかとジーサンは、ニコニコ笑っている。

「どうやって、あの大人を追い払ったんだ?」

「追い払ってはいないが・・・ この先にもっと釣れるところがあると教えて上げただけだよ」

「ふーん」

「頭ごなしに子供を追い払おうとする、彼も大人気ないが、きっとたまの休日に遠くから、釣りに来たのだろう。君にとっては、いつもの遊び場なのだから、釣り場をチョットくらいは譲って上げてもいいかもな」

「ジーサンは俺のこと知ってるの?」

「ああ、近所の子供だろう。宜しくな」

「俺、ケンタ。宜しく!」


 ジーサンは笑った。大きく開けた口の前歯が一本かけていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る