第9話

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「何ダコレハ。コンナ児戯ニ等シイデ我ヲ捉エタツモリカ」

 尊大に言い捨てて、ファルヴォスは右の竜旋棍を振るった。だが、十二面体の内表面に至るとぴたりと止まる。

 ファルヴォスは停止した。考えを巡らしているかのようだった。数瞬ののち、今度は左右両方の竜旋棍を振り回す。だが十二面体はびくともしない。

 ユウリははっとしてフィアナに目を向けた。すると、たらり。額に汗が一筋流れた。やがて顔の至る所が発汗し始める。尋常でない量だった。

「フィアナ!」ユウリは思わず叫んだ。耳に届いた自分の声は悲鳴のようだった。

「あいつを覆っているのは神気ルークスよ。外からも内からも攻撃は通らない。初めての技だけど、直感的にできそうな気がして試してみたの。だけど、これは──くっ。予想以上に、きついわね」

 眼光こそ鋭いが、フィアナの顔は苦痛に歪んでいた。ファルヴォスに向ける両手もわずかに震えを帯びている。

 高速飛行や黒炎による攻撃。ファルヴォスは色々試みているが、十二面体は傷一つつかずにファルヴォスの周囲を囲み続けていた。

 一分近く経っただろうか、ついにフィアナの両手が落ちた。直後にふっと表情が緩み、落下を始める。力の酷使で気絶したのだ。

 ユウリは慌てて後を追おうとする。だが一人の女子生徒がフィアナに向かって飛翔。身体を抱き留めて地面に軟着陸する。

 ファルヴォスに視線を戻した。予想通り十二面体は消失していた。

「雑魚ガ。下ラン時間稼ギヲシテクレル」

 冷め切った語調で呟くと、ファルヴォスは竜旋棍を肩下で構えた。

「フィアナ嬢の孤軍奮闘、わたしの心にガンガン響いちゃいました。負けず嫌いのカノンさんとしては、あいつに食らいつく以外の選択肢は存在しませんね」

 近くをホバリングするカノンが決然と言い切った。

「当たり前だ。行くぞカノン! あの思い上がった竜野郎に、狩る側がどっちかを思い知らせてやる!」

 ユウリは叫び、雷槌らいついを胸の辺りに掲げた。

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