第10話

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 地上の悪竜ヴァルゴン真球スフェイラが回転を始めた。ごりごりと地表を削りつつ、ユウリに襲いかかってくる。

 閃きを得たユウリは前に跳躍。片手持ちの雷槌らいついを掲げ、全力で地面をぶっ叩く。

 二歩分ほどのへこみができた。が、悪竜ヴァルゴン真球スフェイラが轟音とともに迫る。ユウリはさっと水盾すいじゅんを構えた。

 悪竜ヴァルゴン真球スフェイラがぶち当たってきた。同時にユウリは後ろに跳んだ。盾に衝撃が来るが、後方への跳躍のおかげで大ダメージは免れる。

 ユウリの作ったくぼみに悪竜ヴァルゴン真球スフェイラが入った。すると次第に回る勢いが減じていく。

(接地面積が増えたんだ! 土との摩擦で今までと同じようには回転できないだろ!)

 確信したユウリは、「フィアナ! 動きを止めてくれ!」大声で指示を出した。

「わかったわ!」端的な返答の直後、フィアナは蝶翼から子ユリシスを分離。長方形を形作り、悪竜ヴァルゴン真球スフェイラへと飛ばした。

 悪竜ヴァルゴン真球スフェイラと接触した。地面と子ユリシスとの二重の摩擦で、回転速度はみるみる減じていく。

 すぐに悪竜ヴァルゴン真球スフェイラは完全に停止した。

 ユウリは機敏に地を駆け接近。水盾すいじゅんを正面に持ってきて悪竜ヴァルゴン真球スフェイラにぶつけた。

水盾すいじゅん波!」ユウリは言い放った。水盾すいじゅんに波紋が走り、悪竜ヴァルゴン真球スフェイラに伝達する。

 ボンッ! 内側で鈍い音がし、悪竜ヴァルゴン真球スフェイラが小さく跳ねた。一回目には起きなかった現象だった。

(威力が、上がってる?)ユウリが不思議に思っていると、大ダメージに制御を失ったのか右翼がにゅるりと表皮から出てきた。

鏡蝶弾ミラルガン!」フィアナの凜々しい声がして、右翼に白球が続々と吸い込まれていった。

 右翼はびんっと突っ張って、すぐにくたりと草がしおれたような状態になる。

「もう一押しよユウリ! 一気に畳んでしまいましょう!」

 フィアナの自信に満ちた台詞に、「当然!」とユウリは即答した。

 視界の端に竜頭が入った。ユウリは即座に飛翔。一回転して勢いを付け、雷槌らいついで額をぶん殴った。

 見事に命中した。強い衝撃を受けた竜頭は、やがてぐったりと力を失った。

(やった!)ユウリはぐっと拳を握る。だが事態は急転直下する。

 悪竜ヴァルゴン真球スフェイラの表皮に、突如としてぽっかりと穴が空いた。直径はユウリの顔面ほど。最悪の予感に背筋が凍るが、どうにか竜頭を蹴って後方に跳ぶ。

 すると、ヒュン! 鋭い音がして、何かがユウリの眼前に現れた。

 キュルル、ゴウッ! 轟音の直後に穴から禍々しい黒光が射出された。しかし何かがそれを遮り、漏らすことなく受け止めた。

 光が止んだ。するとユウリを守ったもののすぐ前方に、極大の炎が渦巻き始めた。

「最後の足掻きで、指向性の自爆か。見苦しいな。貴様は一人で墜ちていけ。身の丈に合った地の果ての獄へとな。私の生徒は道連れにはさせないよ」

「何か」は少女だった。びしりと小さな手で悪竜ヴァルゴン真球スフェイラを指差す。すると炎は一点に収束し、竜頭の喉へ放たれた。

 炎は悪竜ヴァルゴン真球スフェイラを貫通し、凄まじい速度で空間を進んだ。そしてドオン! はるか遠くで爆音がした。

 ユウリはそちらに視線を向けた。暗い森の一帯だったが、一部分だけ木々が消滅している。

「ちくしょう。悔しいなぁ。覚醒した力を存分に振るって強敵を叩きのめしたと思ったのに。結局俺はこうなんですね」

 無念さを口にしたユウリに、女はくるりと振り返った。メイサだった。讃えるような慰めるような、複雑な笑顔を見せている。

「そう愚痴を零すな、ユウリ君。勝利の栄光が台無しだ。君たちはよくやったよ。

 君の大好きな妹だが、対象から離れた位置での神鳥癒掌ルミラル・クーアルに無茶より精神に過負荷がかかったようだ。だが命に別状はない。気を失っているだけで無事だ。誇れ。私が許す」

 メイサの口調はいつもの尊大さを湛えていた。

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