第72話 水族館。その2

この水族館は南館と北館とに分かれており、入り口は南館に設置されている。

まず俺達を出迎えてくれたのは『黒潮の巨大水槽』だ。

水槽の中には大小様々な魚達が悠々と泳いでいる。

イワシにアジ、マグロ、カツオ、ブリもいる……。

いかん、いかん!今日は釣り脳は捨てるんだ!

純粋に水族館を楽しみに来ているんだ!


「海斗さん、あ、あれはなんて言う魚ですか!?」

すずちゃんの指差す先には、堂々たる風格で泳ぐクロマグロの姿が……。

「あれはクロマグロという魚だよ。」

「あれがクロマグロなんですね……、初めて見ました!」

そっか、すずちゃんはお嬢様だから、こういう場所に来ない限りは目に触れる事も無いのか……。


俺達はその後も南の海の魚コーナーやクラゲコーナー等を見て回る。

「海斗さん、海斗さん!カクレクマノミですよ、可愛い〜!」

カクレクマノミは知ってるのね……。

「南国の魚は色鮮やかでとても綺麗だね。」

「……はい。……私、昔からあまり外に出たことが無くて、水族館なんてとてもじゃないけど、行かせてもらえませんでした。 だから今日、色々なお魚を見る事が出来て、とっても嬉しいんです! ありがとうございます、海斗さん!」

南国の海の水槽をバックにすずちゃんは自分の思いの丈を語ってくれた。

それがとても綺麗で、まるで南国の海にいる様な、そんな感覚にさえ陥りそうになっていた。


「あ、すずちゃん!後ろ、ウミガメ!!」

俺が指差す先には、人気者のウミガメがすずちゃんの真後ろに来ていた。

俺は咄嗟に隠しておいた秘密兵器『高画質デジカメ』で連射する。

すずちゃんが振り向き、ウミガメの手にガラス越しに触れるまでの間を鮮明に記録する。


「ウミガメさん、こんにちは!」

屈託の無いその笑顔はすずちゃんの純粋さそのものだ。しかも、ウミガメに『さん』まで付けるとかどれだけ天使なんだ!


その後も深海の生物を見たりしたが、これはすずちゃんには刺激が強いらしく、早足で駆け抜けて行ってしまった。

おそらく、この先のアロワナとかも食い付き悪そうだな……。


俺達はアマゾンの生き物コーナーに入る。

内部は薄暗く、野鳥の鳴き声がコーナー内に響き渡る。

様々な大きさの木々が生い茂り、巨大水槽に滝の水が注ぎ込む。

すると、巨大な水槽に悠々と泳ぐアロワナがヌッと顔を出す。

「怖い顔ですね……アロワナさん……。体大きいし……。」

やはり予想通り食いつきは悪かったな。

まぁ、男連中には『ザ・アマゾン』て感じで好きな人は多そうだけど、女の子達はやっぱり可愛らしいのが良いんだろうな……。

しかしそのすぐ先には、水族館の人気者の一つ、ペンギンが控えているのだ!


ーーまだまだ、これから巻き返せばいい!

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