第70話 不安要素。その2
ーーこのすずちゃんのすぐ近くにいるスーツ姿の女性は誰?
「申し遅れました。私、鳳星院家に仕えております、警護担当の『伊崎千早(いざきちはや)』と申します。宜しくお願い致します。」
俺が訝(いぶか)しげに思っていたのが伝わったのか、伊崎と名乗るその人物は深々と頭を下げる。
伊崎さんは漆黒のスーツに身を包み、白い手袋をしている。
細身の女性で、身長は俺と同じ位に高い。おそらくは175センチはあるだろう。
大体、警護している方やメイドさんなんかは黒髪の方が多いが、この女性はグレージュカラーのストレートロングヘアーだった。
年齢は見た目で言うと20代前半といったところか。
「本日は私、伊崎がすずお嬢様と海斗様を御護り致します。」
って事は、今日のデートはこの人の監視下の元、行動しなければならないのか!?
『すみません……何度断っても無理でした……。』
すずちゃんが小走りに駆け寄って来て耳元で呟く。
うーん、なら仕方ないよね……。
すずちゃんいい香りするし、うん。
「では私は離れておりますが、何かありましたら直ぐに駆け付けますので。ではお嬢様、失礼致します。」
そう言い残し、伊崎さんはあっという間に姿を消す。忍者の末裔か何かかよ……。
「では、行きましょうか……か、海斗さん!」
「うん、そうだね!あ、水族館とか……どう?」
「行ってみたいです、水族館!」
よし!何とか水族館へ誘えた!
多少会話に違和感あるが、致し方ない!
よし、次はスマートに日焼け止めを!
俺はマイバッグから日焼け止めを出し、すずちゃんに渡す。
「日焼けするといけないから……。」
改めて渡すと恥ずかしいな……。
「あ、ありがとうございます!ちょうど今日、日焼け止めを忘れて来てしまっていて……。」
これからこんなやり取りがすずちゃんと出来るのか!ヤッター!
「そ、そんなに……嬉しいんですか……?」
すずちゃんの声にハッとし、辺りを見渡すと通行人がクスクス笑いながら歩いて行く。
「もしかして俺、声に出してた……?」
「は、はい…………フフッ!」
俺の間抜けな行動にすずちゃんも笑いながら答える。
「でも、嬉しかったです!ありがとうございます!」
すずちゃんの笑顔が朝日に照らされてキラキラ輝いていた。
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