第68話 誘うハズが。

水族館からの帰り道。

俺は先行(ゆ)く美柑に置いて行かれ、一人トボトボと歩いていた。

家に帰るなり、俺はソファーにうつ伏せになる。

ーーーーどう誘えばいいんだ?

一人バタバタ、ソファーで暴れていると、それを見兼ねたのか美柑が声を掛けてくる。


「本当は敵に塩を送る様な真似はしたくないんだけど………。恋人同士なら、普通に誘えばいいんじゃない? 変に意識したりすると、それこそ警戒されるよ?」

美柑はソファーに座り、またしても熱々のココアをすする。


「美柑、ありがとう! でも、夏に熱々のココアはどうかと思うぞ?」

「私の勝手でしょ!かけるよ!?」

美柑のアドバイス通り、普通にデートに誘おう!

『明日なんだけど、もしよかったら一緒に水族館に行かないかな?』

よし、これで行こう!

俺はスマホを手に取ると、すずちゃんに連絡を取ろうとする。

その瞬間だった!


ーーピリリ、ピリリ、ピリリ!


「うおぅ、ビックリしたー!……って、すずちゃん!?」

そう、電話の相手はまさに今、自分が電話をしようとしていたすずちゃんだったのだ。

「も、もしもし!?」

いかん、駄目だ!声が裏返ってる!

『も、もももももしもしし!?か、かか海斗さんですかっ!?』

もう、どの部分が正解なのか解らないくらいに吃りまくるすずちゃん。

「どうしたの、落ち着いて!?」

ーーしばらくの後。

「あ、明日、もしご用事がなければ、わ、わ、私とデートして下さい!…………言えた!」

まさかのすずちゃんからのデートのお誘い!

しかも、最後の『言えた!』とか可愛すぎだろ!!

「だ、大丈夫!行けるよ!」

『で、では、明日!朝9時に中央公園に来てもらえますか!?』

「わかった!」

すずちゃんからの電話は終わり、こっからが酷かった。

何を着て行く、靴は何を履いていく、朝何時に起きよう、集合時間の10分前にはいないと、美容室は行ってる時間がないか、早く明日になれ、待てよ、明日はどこに行くんだ、水族館じゃなかったら計画はパーだ!


次々に巡る思考で俺の頭はパンク寸前だった。


てか、すずちゃんにデート誘わせてるし……………。


結局、その日は一睡も出来なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る