第48話 俺の策。

帰り道俺はあたかもふと思いついたかのように皆に提案を持ちかける。

「この近くに魚がよく釣れる場所があるんだけど寄ってかないか?」

もちろんこの提案は真也に了承済みだ。


「まだ時間もあるし、いいんじゃないか?」

真也も俺の提案に、自然な感じで乗ってくれる。

「海斗先輩がいかれるのでしたら……。」

すずちゃんと奏ちゃんも快く了承してくれた。

美柑は言わずもがな。

後は浜辺達だが……。

「いいんじゃないの?海斗が釣れるって言ってるんだから本当に釣れるんでしょう?」

浜辺達も了承してくれた。


「じゃあ、運転手さん!ここまでお願いします!」

俺はスマホで地図を見せる。

「かしこまりました。」

車は現地に向かって走り出す。

別荘の後山道を抜け、平地をただひたすら走る。

俺たちは車の中で談笑をしながら時を過ごすが、委員長はやはり浮かない顔をしていた。


しばらく平坦な道を走っていると、車は一面畑に包まれた農道を走る事になる。

「こんな場所に魚なんているの!?」

「まだ先だよ。」

浜辺の言葉を軽くあしらい、俺は窓から青く広がる空を見上げていた。

車は農道を抜け、市街地に入る。

窓を開け放つとほんのりと磯の香りがしてくる。

そう、この道は海岸線へと続く道。

釣り場はもうすぐそばにあった。


ーーーー。


車は海岸線をひたすら走り、とある小屋の前で止まる。

「ここだよ。」

俺が昔、親父に一度だけ連れてきてもらって来た場所だ。

それ以降は何度か自分で自転車で来たことがある。


「海上釣り堀………?」

皆が首をかしげる中俺は勝手知ったる家の中。と言った感じで、ズカズカと小屋の中に入っていく。

「おっちゃん、今日今からいい? 全員で8人なんだけど。」

俺はカウンターにドカッと座り込み、スポーツ新聞を読む年配のおっちゃんに話かけた。

「あぁ、海ちゃん。なんね今日は大世帯(おおじょたい)だねー。」

「あぁ、学校の友人だよ。」

「ほんならチームを二つに分けて釣りな。今日はお客さんもおらんけんね。」

確かに朝は霧がかかっていて、天候もどうなるか分からなかったけど、下に降りてきたら快晴だもんな。

「やり方は海ちゃん、教えたって!俺は競馬があるけんね。」

相変わらずマイペースなおっちゃんだ。だからあんまり流行ってねえんだよな。


ここを利用する客はほとんどがベテランの釣り師ばっかり。

初心者やファミリーの釣り客は、殆どこのおっちゃんのいい加減な接客により、リピートしなくなってしまう。

まぁ、おかげで気兼ねなく釣りが出来るってわけだ。


「海上釣堀ってのはまぁこの四角く囲まれた生簀(いけす)に魚が放流してある。浅い所と深い所では釣れる魚も違うし、餌によっても釣れる魚が変わってくる。 今回はおっちゃんに言った通り、二つのチームを作って四人、四人で釣りをしていく事になるが、この中に釣り経験者がほとんどいない為、それぞれのチーム内に一人釣り経験者を入れることにした。」

そうこれが俺の作戦だ。真也も美柑も知っているこの茶番に付き合ってもらうぜ、皆!

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