第32話 スマホ。その2

俺はそっとテーブルの上に置かれたスマホに手を伸ばす。

もちろん罪悪感はあったが、それよりもすずちゃんがなぜそんなに隠したがっているのか、気にもなっていた。


ゆっくりと、手を伸ばしていく……。


ーーーー。


「……っだぁ!!駄目に決まっているだろ、他人のスマホを見るなんて!」

なんとか俺は理性を保つことができたが、それでも目の前に置かれているすずちゃんのスマホに目をやってしまう。


「何でこんなに気になるんだぁーー!!」

落ち着け、深呼吸をしろ。心穏やかにゆっくりと……。


「海斗ー!?大丈夫ーー!?」

いきなりの浜辺の声に、心臓が口から飛び出しそうになる。

俺はとっさに布団をかぶり寝たふりをする。


「海斗……。寝ちゃってるのか……。」

浜辺の気配はまだすぐそこにある。

俺は布団に潜りながら深呼吸をして、心を落ち付けようとする。


ーーと、俺の鼻腔をくすぐる甘い香りがどこからか……。


しまった!この布団はすずちゃんと奏ちゃんが一緒に寝ているベッドだった!

この甘い香りは二人の残り香か……!

浜辺よ、早くどっかに行ってくれぇーー!!


「海斗……。色々ごめんね……素直になれなくてゴメン……。」

独り言か?何の事を言ってるんだ?


「ん?…………このスマホ……。ここにあるって事は海斗のかな?」

テーブルの方からコトッ!と音がする。

おそらく浜辺がスマホを持ち上げた音だろう。

「海斗のにしては……ファンシーなカバーね……。」

バカーー!!それは俺のじゃねぇー!

今起きたら俺が狸寝入りしていたことがバレてしまう。

どうしたら…………。


「海斗先輩、調子はどうです……か………って、そ、そそそ、ソレ! 私のスマホ……。」

寝室の入り口の方からすずちゃんの声が聞こえる。


「え、あ、あの、コレは違うの、すずちゃん!!」

浜辺がめっちゃくちゃ言い訳をしているが、その状況じゃ多分無理だと思うぞ。(俺が言えた事では無いが……。)


「な、な、中を見たんですか……。」

すずちゃんの言葉に言葉を発しない浜辺。

まさか………お前……………。


「ごめんね……ちょっとだけ見ちゃった。」

浜辺は泣きそうな声を出しながらすずちゃんに謝罪する。

「…………で、出て行ってくださいぃ!!」

すずちゃんから発せられた言葉とは思えないぐらいに、とてつもなく大きな叫び声だった。


テーブルにコトッと何かを置いた音がし、そのすぐ後、走って出て行く足音がする。

恐らくは浜辺…………。


ーーーー俺も浜辺と同じ事をしようとしていたのに……。

卑怯な奴だ、俺は……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る