第9話 道すがら。
俺はあの睨み合いの後、仕方無く形だけはと文芸部に顔を出し、帰路に就く。
その足取りや重く、文芸部に顔を出さなきゃいけなくなるわ、綾瀬からは監督なんて意味の分からない事を言われるわ。
「どうすりゃいいっちゅうねん!」
そんな時だった。遠くから微かに悲鳴の様な声が聴こえた様な気がした。
「………………。」
暫くの間目を閉じ、感覚を研ぎ澄ます。
…………。
………。
「〜〜〜〜〜!!」
何を言っているかまでは聴き取れないが、確かに女の子の声が路地裏の方から聴こえた気がした。
俺は気が付いたら声のした方に全力疾走していた。
俺は寂れた工場跡地に着いた。
錆びた鉄の臭いや、オイルの臭いが混じり合って異質な空気を作り出していた。
「誰かいるのかー!」
俺はワザと大声を上げて、近くに落ちていた鉄材を持つと、壊れて錆びたモーターにガンガン鉄材を叩きつけた。
辺り一面に響き渡る金属音と俺の声。
「何だぁ、テメェはぁ!」
数人の男達が工場跡地から出てくる。
やはり声の主はこの中にいるのか。
コイツら……制服も着てないし、見た目、成人してそうな奴等だな。
なら遠慮なくブッ倒せる。
「女の子の叫び声が聞こえたから、警察呼んでからここに来たんだよ。 女の子、引き渡せよ。」
俺の言葉に、数人の男達は顔を見合わせるとゲラゲラと笑い出す。
「正義の味方のおつもりですかぁ?テメェみたいな奴が一番嫌いなんだよ!」
鉄材やらハンマーを持った男達がぞろぞろ出てくる。
ざっと見積もっても20人。どうやら暴走族の溜まり場だったらしい。
だが、悲鳴を上げていた子を見つけるまでは帰る気は無かったし、そもそも負ける気がしなかった。
「覚悟しなよ、族の兄ちゃん達!」
俺は全力で奴等に向かって走り出した。
ーー数十分経った後。
ボロボロになった不良達の山の上に俺は立っていた。
何とか勝てたが、俺も鉄材で頭を強く打たれ、出血していた。
「さて、工場内に入るか……。」
フラフラしながらも何とか力を振り絞り歩く。
登る階段も二重に見える程で、手も震えている。
この先、まだ奴等の仲間がいたら、流石に勝てる気はしなかった。
「ふぅ…………着いた……。」
工場の最上階には、廃工場には似つかわしくないソファやテーブルが置かれていた。
この階だけは綺麗にされており、廃材などは一つも見当たらなかった。
「よくここまで来れたな。」
声の主は、黒いソファに座り、片足を組みサングラスを掛けた大男だった。
腕は丸太の様に太く、首も頑強そうだ。
隣には俺達の高校の制服を着た女の子が座っていた。
「お前、その子に何した!?」
俺の言葉を他所に、その男は持っていたタバコに火を点けると一服する。
「何もしちゃいねぇよ。金が目当てだからな。コイツがキズモンになると俺が困るんだわ。」
そう言って男はタバコをもう一フカシし、テーブルの上に置いてあった灰皿にタバコを押し付けた。
「テメェじゃ、俺には勝てねぇよ。」
大男の言葉とほぼ同時に俺の意識は飛んでいた。
「………すか!………ですか!」
何か声が聞こえる。
身体は動かない。
見えるのはボヤケた工場の天井と、抜け落ちた天井の隙間から覗く青空。
「…………大丈夫ですか!?」
さっきの悲鳴を上げてた女の子か……。
無事で良かった……………。
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