第6話 違う、そんなんじゃない。

俺はあの後、何事も無く教室に戻ったが、委員長は何事も無くなかった。

「委員長、どうした?気分悪いのか?」

先程からカタカタと小刻みに震えている委員長のおでこに手をやる。

「熱は無ぇみたいだな。」

俺がおでこに手を当てると、委員長は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

「わ、わりぃ!気軽に女の子に触れちゃいけないよな!」

俺は咄嗟に委員長のおでこから手を離す。


「お前、本当にそういうとこだよな。」

声のする方を見ると腕を組んだ鳳星院がニヤリと笑いながらこちらを見つめていた。


「そういうとこって、どういうとこだよ?」

「あ、あの……今日は大してお役に立てず、フォローも出来ず、本当にごめんなさい!」

直ぐ様委員長が頭を下げてくる。

そんな、頭を下げられる事はしたつもりは無いんだが……。


「こっちも委員長に迷惑かけちまって済まなかったな!」

俺は手を振りながら委員長を見送る。

彼女は教室の入り口で一礼して去って行った。

どこまでも律儀な奴だな。


「そういうとこだよ、海斗。」

直也は俺を指差しながらウインクをしてくる。

直也の言っている事はイマイチ分からないが、とりあえず誤解も解けて良かった。


「あら、まだいたの、結城君。」

颯爽と現れた綾瀬は嫌味っぽく俺に声を掛けてくる。

「ん?綾瀬さん、イメージ変わった?」

「そんなわけないじゃない!たまたま二人がいたから気晴らしに声掛けただけだし、すぐに塾に行かなきゃいけないから二人に声かけるわけないし! はぁ!自意識過剰なんですけど!むしろ話しかけてないし!」

咄嗟に出た直也の言葉に動揺したのか言葉が支離滅裂になる綾瀬。


「こんなに動揺する綾瀬、初めて見たな。」

俺は隣の席だから良く知ってるが、元々こんなに話す方じゃない。


「さては綾瀬。海斗の事、好きだろ!」

直也の言葉に見る見るうちに顔が真っ赤に染まる綾瀬。

「あ、う……え、そんな………う……。」

しどろもどろになる綾瀬。

誰が見ても一目瞭然なのだが、俺は後日改めて直也から詳しく聞かされるまで、綾瀬の気持ちに気づかなかった。


ーー絶対にそんな事はないと思っていたから。

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