何も言わない優しさ ②

「私、警察嫌い」

「なんで?」

「ろくな思い出ないから」


 ユキと警察の間に何があったのだろう?

 今までユキ本人の口からも、付き合いの長いアキラたちからも聞いたことがない。


「昔、警察絡みでなんかイヤなことでもあった?」

「うん」


 マナブはレーズンチョコを盛った小皿をユキの前に置いて笑った。


「ホレ、未来の旦那に話してみ」


 マナブから小皿を受け取って、ユキはレーズンチョコを口に運ぶ。


「未来の旦那って……」

「いいじゃん。もう詐欺男と結婚する気はねぇだろ?」

「それはそうだけど……まぁいいか……。人に話すのはマナが初めてなんだけどさ」


 ユキがそう言って顔を上げると、マナブは胸を押さえて嬉しそうに笑った。


「その、『オレが初めて』って響きいいなぁ!今、キュンときた!キスしていい?」

「とりあえず……1発殴るか?オイ……」


 ユキは低く呟いて、ヤンキー時代を彷彿とさせる鋭い眼光でマナブをにらみつけ、指の関節をバキバキ鳴らした。


「ごめんって!ふざけずにちゃんと聞くから!!」

「まったくこのエロ魔人は……」


 ブツブツ言いながらタバコに火をつけ、ユキはゆっくりと苦い過去を話し始めた。


「私が高校行ってたの、マナは知ってる?」

「うん、聞いたことある」

「1年の途中で辞めたんだけどね」

「らしいね」


 ユキが高校を中退した理由は、アキラもトモキも知らないと言っていた。

 先ほどユキ本人が言っていたように、人には言えないほどの理由でもあったのかとマナブは考える。


「その頃になんかあった?」

「うん……」


 話はユキが私立の女子高に通っていた頃に遡る。

 校則がゆるかったこともあり、ユキは明るい茶髪にピアス、しっかりメイク、制服を着崩しスカートは短くして、いかにもギャルという格好で通学していた。

 それはユキだけが特別なのではなく、同じような服装をした生徒はたくさんいた。

 その中でもハッキリとした顔立ちでスタイルのいいユキは一際目立ったのだろう。

 他の生徒は何も言われないのに、ユキだけはよく生活指導や風紀委員の教師から呼び止められ、長ったらしい説教をされていた。

 それはもしかしたら、中学時代にヤンキーだったことも一因なのかも知れない、とユキは補足した。

 中学時代にヤンキーだった仲間のほとんどは高校には通わず、近所で適当にアルバイトをしたり、リュウトのように通信教育で資格を取る勉強をしながら働いたり、何もせず遊び回っている者や妊娠して結婚した者もいた。

 高校に通っていたユキは、かつてはヤンキー仲間だった一部の友人から、少し冷たい目で見られたらしい。

 高校に通っても仲のいい友達ができるわけでもなく、かつての仲間からは冷たい目で見られ、毎日がつまらなかった。

 そんな高校生活を送っていたある日、気分転換に新しいピアスでも買おうかと、学校帰りにふらりと立ち寄った駅前の雑貨屋で事件は起きた。

 ポップな色合いの文房具やキラキラした髪飾り、ラブリーな部屋着にキュートな下着。

 せまい店内はたくさんの商品で埋め尽くされ、客同士がすれ違うのも大変なほど、可愛いもの好きな女子で賑わっていた。

 ユキは何度となく他の客とぶつかりながらも、あれこれ手に取りじっくり眺めながらゆっくりと店の中を見て回った。

 最後にアクセサリーのコーナーでピアスを見たものの、あまり気に入るものには出会えなかった。

 何も買わずに店を出ようか、それともせっかく来たのだから何か別の物を買って行こうかと考えていると、鞄の中で携帯電話の着信音が鳴った。

 ユキは鞄から携帯電話を取り出し、相手がルリカであることを確かめてから電話に出た。

 BGMと客の声で賑やかな店内ではルリカの声が聞き取りづらく、ユキは店を出ようとしていた他の客の横をすり抜けて、ルリカと電話で話しながら店を出た。

 その直後、大きな警報音が辺りに鳴り響いた。

 その音のあまりの大きさに驚き立ち止まったユキは、あっという間に見知らぬ大人に取り押さえられ、店の奥に連れて行かれた。

 万引きしただろうと店員に何度も聞かれ、していないと答えると、鞄やポケットの中を見せろと言われた。

 万引きなど身に覚えのなかったユキは、その場で鞄の中身を引っくり返して見せた。


「今でもハッキリ覚えてるわ。バカ高いだけで趣味の悪い派手な色の安っぽい下着が3つもさぁ……私の鞄の中から出てきたわけよ」

「えっ、それって……」

「私はそんなもん取ってないよ?自慢じゃないけど、ヤンキー時代だって盗みだけはやってない」

「じゃあ……なんで?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る