素直になれない嘘つきな二人 ④

 カンナをバス停まで送った帰り道、アキラは上着のポケットからスマホを取り出して着信履歴を開いた。

 ユキからの電話は一度だけだったようだ。


(一度だけか……なんの用だったんだろう……)


 自分から電話をしてみようかとユキの番号を画面に映し出してみたものの、どうしても発信ボタンが押せない。

 そのまましばらく、ユキの番号が映し出された画面を眺めた後、アキラはマナーモードを解除してから画面をOFFにして、またポケットにスマホをしまった。


(やっぱ……もう一度掛かって来たら出よう)




 ユキはさっきからもうずいぶん長い時間、ベッドの上で手足を投げ出してぼんやりしていた。


(アキ、電話に出なかったな……。もう電話も出たくないってか?それとも……)


 もしかして、カンナが一緒だったのかも知れない。

 そう思うとユキは、また電話を掛けるのをためらってしまう。


(カンナといるなら邪魔しちゃ悪いし……とりあえず着信は残ってるんだし……今日はもういいか……)


 ユキはなんとなくモヤモヤしながら、枕に顔をうずめた。

 トモキとアユミには早いとこ仲直りしろなんて言われたけれど、そもそもアキラとはケンカなんてしていない。

 友達をやめると言い出したのはアキラだ。

 そばにいてももうなんの意味もないとも、友達ヅラをするのも限界だともアキラは言った。


(あんなこと言われたらさ……今更元通りには戻れないよね……)


 ユキは不意に、あの夜アキラにキスされたことを思い出した。

 急激に鼓動が速くなって、頬がカーッと熱くなる。


『オレは中学ん時からさ……ずっとオマエが好きだったよ。男と思われもしねぇのに、こんなに長い間片想いしてバカみてぇだな』


 切なげに低く呟くアキラの声が、耳の奥で何度も響いた。


(私と一緒だ……。私もリュウが好きだった……けど……)


 リュウトがハルを選んだと知ってあんなにショックだったはずなのに、アキラに友達をやめると言われたことの方がもっとショックだった。

 あの日から、リュウトのことよりアキラのことばかり考えていることにユキは気付く。

 いつも一緒にお酒を飲んでバカみたいに憎まれ口を叩き合って、大笑いした。


(アキがいないと……なんでこんなに寂しいんだろ……)


『最初っから素直にそう言え、バーカ』


 またアキラの言葉と笑い声が脳裏をかすめた。

 じわりと溢れた涙が、枕にシミを作る。


(口が裂けても言うか!!なんだよ……自分だって素直じゃないくせに……。好きなら好きって素直に言えよ、バーカ……)


 心の中で散々悪態をついても、涙が溢れて枕のシミを広げていく。

 元々恋人でもないし、友達でいることも拒絶された今、アキラがどこで誰と何をしていようが、自分には何も言えない。

 長い時間をかけて積み上げてきた信頼とか絆みたいなものは、一瞬にして跡形もなく消えてしまった。

 アキラにはカンナがいるし、自分にもタカヒコがいる。

 もういい歳をした大人なのだし、お互いに恋人と将来のことを考えた方がいいに決まっている。

 タカヒコと結婚したら地元を離れることになるし、カンナの気持ちを考えると、本当はアキラとはもう会わない方がいいのだろう。

 どうするのが一番いいのか頭ではわかっているはずなのに、このままもうアキラとは会えないのかもと思うと、また涙がボロボロとこぼれ落ちた。


(アキは私のことばっか責めてたけど……アキだってカンナがいるじゃん……。寂しいとか……会いたいとか……一緒にいたいとか……絶対に言ってやらないからな!)




 翌日、ユキの元に警察から連絡があった。

 ストーカー被害にあっていた証拠となる物があれば、それを持って警察に出頭して詳しく事情を聞かせて欲しいと言う話だった。

 警察に対してイヤな思い出しかないユキは、『出頭』と言う言葉に嫌悪感を覚えた。

 本当は行きたくないが、今回はアキラのおかげでストーカーが捕まったのだし、言うことを聞かないわけにもいかない。

 明日の朝、仕事の前に証拠品を持って行くと言って電話を切った。


(今度はちゃんと私の言うこと信じてくれるのかな……)




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