素直になれない嘘つきな二人 ③

 不審者を見ただけでストーカーだとわかるような宅配便のお兄さんなんて、思い当たるのは一人しかいない。


「あの……その宅配便のお兄さんの名前、わかります?伝票に配達者の名前書いてますよね?お礼がしたいんですけど……」

「伝票ね、あるわよ」


 大家さんは一度部屋に入り、宅配便の伝票を持って戻ってきた。


「ここに書いてあるわ。サトミ宅配便の……真山さんって方ね」


 ユキは大家さんから受け取った伝票に書かれた、少しクセのあるアキラの文字を眺めた。


(やっぱりアキだ……。こんな大事なこと、なんで隠すんだよ、バカ……)




 その頃。

 アキラは部屋でカンナの手料理を食べながら、どうやってカンナに別れ話を切り出そうかと考えていた。

 アキラの考えていることなど何も知らずに、カンナはせっせと手料理をテーブルに運ぶ。


「いくらなんでも作りすぎじゃね?」

「ちょっと張り切り過ぎちゃった。無理して全部食べなくてもいいからね」


 アキラと一緒にいるのがよほど嬉しいのか、カンナはいつも目一杯アキラに尽くす。

 健気なカンナを見ていると、アキラは自分勝手な理由でカンナを切り捨てようとしている自分がひどい人間だと思えた。


「そんな無理しなくていいんだからな」

「無理なんてしてないよ。私がしたいからしてるの」


 そんなふうに笑われると、余計に話を切り出しづらい。

 アキラはビールを飲んで、カンナには気付かれないように小さくため息をついた。


(カンナはこんなにオレを想ってくれてるのに……オレの勝手な都合で別れようなんて、やっぱ無理だ……)


 今日こそはと思うほど、カンナの顔を見ると決心が揺らぐ。

 カンナのことは嫌いじゃない。

 けれど、本気で好きにはなれない。

 ぼんやりしながら料理を口に運んでいると、カンナがアキラのシャツの袖を引っ張った。


「アキくん、電話鳴ってるみたい」


 ハンガーに掛けた上着のポケットの中から、スマホがくぐもった音で着信を知らせているのが聞こえた。


「あ……上着のポケットに入れたままだったか」


 アキラは立ち上がり、上着のポケットから取り出したスマホの画面を見てうろたえた。


(ゆっ……ユキ……?!なんで……?)


 慌てて電話に出ようとしたが、カンナの目の前でユキと話すのは気が引ける。

 なかなか電話に出ようとしないアキラを、カンナが不思議そうに見ている。


「電話、出ないの?」

「ああ……。会社のやつだ。どうせ、ここの居酒屋にいるから来ないかとか、そんな電話だろ。ほっときゃそのうち切れる」


 そう言うと、スマホの着信音が途切れた。

 アキラはスマホをサイレントマナーモードにして、また上着のポケットに戻した。


「またポケットにしまっちゃうの?」

「また掛かってくると面倒だからいい」


 自分でもよくわからないことを言っているなと思いながら、アキラはドキドキしているのがバレないように、なに食わぬ顔で元の場所に座った。

 その後もアキラはカンナの前でスマホを見ることはせず、ユキの用は一体なんだったのかと気にしながら食事を済ませた。

 今日はとてもじゃないけど、カンナを抱く気分じゃない。


「明日の仕事、早いんだ。だから今日は早く寝たいんだけど」

「そう?じゃあ……片付け済んだら帰るね」

「……悪い」


 アキラはとにかく早く一人になりたくて、カンナに嘘をついた。

 ユキからの電話を同僚からだと嘘をつき、カンナに早く帰って欲しくて更に嘘をついた罪悪感で、アキラの胸がチクチクと痛む。


(どんだけ嘘つくんだ、オレは……)



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