初恋の終わらせ方 ④

 ユキはアユミの話を頭の中でまとめてみる。

 小学校時代の同級生で、アユミが大学生の時に再会して、時々食事をしたりするくらいの関係だった、トモキとはタイプの違う男と言えば……。

 ユキの脳裏に思い浮かぶ男は、たった一人しかいなかった。


「それって……リュウ?」

「うん。宮原くんが、私の初恋の人」

「……そうだったんだ……」

「ユキちゃんも宮原くんが好きだったよね?」

「えっ?!」


 誰にも話したことはないはずなのに、なぜアユミが知っているのかと、ユキは激しくうろたえた。


「昔の話だよ」

「あ……うん、子どもの頃ね」


(焦った……。今でも好きとか言えない……)


 小学生の頃の話だとわかると、ユキはホッと胸を撫で下ろした。


「なんか私の事ばっかり話してるけど……ユキちゃんは?」

「え?」

「宮原くん、いずれハルちゃんと結婚するんでしょ?ユキちゃんにも結婚考えてる彼氏がいるらしいって、トモくんから聞いたよ」


 そう言われるとなんだか複雑な気分だ。

 胸の奥がチクチクと痛む。

 ユキは手を止めてため息をついた。


「いまだに初恋引きずって、大事な友達なくして……。彼氏のことだって好きかどうかもよくわからないのに、『結婚を考えてる』なんて言えるのかな……」


 ユキがしんみりとした口調でそう答えると、アユミは少し首をかしげた。


「ユキちゃん、今も宮原くんが好きなの?」

「うん……好きなんだと思う。ずっと言えなかったけど……」


 ユキは別のネイルカラーをアユミの爪に塗りながら、どうしてリュウトに好きだと言えなかったのかを話した。

 そして、ずっと友達だと思っていたアキラのこと。

 ずっとリュウトを好きだった事をアキラに知られた上に、思いがけず『ずっと好きだった』と言われ、『もう友達をやめる』と言われてショックを受けたこと。

 アユミは時折うなずきながら、ユキの話に耳を傾けた。


「好きだってずっと言い続けたハルをリュウが選んだんなら、もっと前から好きだった私がハルより先に好きだって言ってれば、リュウは私を好きになってくれたのかなとか……。今更後悔なんかしてバカみたいなんだけど……」

「それは違うと思う」

「え……」

「たしかに……もっと早くユキちゃんが宮原くんに好きだって言ってれば、付き合えたかも知れないよ。でもね、宮原くんがハルちゃんを選んだ理由は、それだけじゃないと思う」


 リュウトもたしか同じようなことを言っていた。

 ユキは、照れ笑いを浮かべながらハルのことを話す、幸せそうなリュウトの横顔を思い出す。


「ユキちゃん、私はね。トモくんと別れてから妊娠してることを知って一人でマサキを産んだけど、なるべくしてこうなったんだと思ってるよ。だから私はマサキと会えたし、トモくんともまた会えたんだと思う。あの時別れてなかったら、私もトモくんも、今とは違う人生を歩んでたはずだから」

「うん……そうかもね」

「だから……アキくんが何も言わずにユキちゃんのそばにずっといたことも、ちゃんと意味があるはずだよ。もしユキちゃんが後悔してるなら、ひとつずつ乗り越えていかないと前には進めないと思う」


 ユキにとって、若いうちにたった一人で子供を産んで育ててきたアユミの言葉には、計り知れないほどの重みがあった。


「ユキちゃん、大事なことはちゃんと自分で確かめないとね」


 そう言って穏やかに笑うアユミはとても綺麗だとユキは思った。


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