交錯する想い ①

 昔からの習慣で、いつものようにリュウトの部屋のドアをノックもせず開けたアキラとユキは、信じられない光景に目を疑い絶句した。

 リュウトがハルを膝の上に乗せ、優しく抱きしめてキスをしている。

 ドアの開く音に気付いたリュウトとハルが、慌てて顔を離した。

 ハルは顔を真っ赤にして飛び上がり、あたふたしている。


「相変わらずだな、オマエら……。入る前にノックくらいしろよ」


 リュウトはばつが悪そうな顔をして、大きなため息をついた。


「えっ……?えぇっ……?!」


 ユキは激しく混乱している。


「なんだ……?!オマエら、いつの間にそんな……」


 アキラはリュウトとハルを交互に指さした。


「先に言っとくけどな……。オレとハル、戸籍上は叔父と姪だけど、血は繋がってねぇから」


 リュウトは頭をかきながらめんどくさそうにそう言って、おもむろにタバコに火をつけた。


「そうなのか?」

「オレと姉貴、両親とも違うから血が繋がってねぇんだと。オレも二十歳の時に初めて知ったんだけどな」


 アキラとユキにとってそれも衝撃の事実だったが、やはりリュウトとハルの関係の方が気になった。


「いや……まぁ……それはわかったとしてさ……リュウとハル……デキてんのか……?」

「アキ、言葉に気を付けろよ」


 リュウトは少し呆れた顔をして、タバコの煙を吐き出した。


「とりあえず……ハル、部屋に戻ってろ。また後でな」


 リュウトが促すとハルは素直にうなずいて、アキラとユキに恥ずかしそうに頭を下げ、そそくさと部屋を出て行った。

 アキラとユキは、目の当たりにした出来事がまだ信じられないと言いたげな表情で、その後ろ姿を黙って見送る。


「まぁ……そんなとこ突っ立ってねぇで上がれよ」


 リュウトは立ち上がってコンロでお湯を沸かし始めた。

 ユキはまだ混乱しているようで、靴を脱ぐ動作もぎこちない。

 アキラとユキが部屋に入って座ると、ほどなくしてリュウトがコーヒーを注いだカップをテーブルに置いた。


「オレもさっき帰ったとこでな……。ハル、ここでオレの帰り待ってたんだ。しばらく忙しくて会ってなかったから、一秒でも早くオレに会いたかったんだってさ」

「ふーん……って……いやいや、ハルが待ってたはいいとして……なんだあれ?」


 いくらハルがリュウトを慕っていても、のおかえりとただいまの挨拶が、恋人同士みたいなキスというのはおかしい。

 アキラはさっき見た二人のキスを思い出して、いつからリュウトは、女の子に対してあんなに甘い顔をするようになったのだろうと思っている。


「あー……説明すんのめんどくせぇけどな。そういうことだ」


 リュウトはあからさまに、さっきよりもさらにめんどくさそうな表情でそう言って、コーヒーを一口飲んだ。


「そういうことって……」

「オレら付き合ってんだよ。ハルが大人になったら結婚する」


 リュウトが照れくさそうにそう言うと、アキラは驚いて目を見開いた。


「はぁ?何言ってんだよ?!相手はあのハルだぞ?18も歳下の!!しかも、姪っ子の!!」


 取り乱すアキラに、リュウトはかなり呆れているようだ。


「そんなことアキに言われなくても、オレが一番よくわかってるっつーの。でもな……ハルを幸せにしてやれんの、オレしかいねぇんだってさ」


 リュウトは当たり前のようにそう言うけれど、アキラにはやはり、小さい頃から可愛がっていた姪のハルと結婚すると言うリュウトが信じられない。


「なんだそれ……?ハルが昔からリュウのこと大好きなのは知ってるけど……リュウはそれでいいのか?」

「当たり前だろ」


 リュウトは笑いながらも、キッパリと答えた。


「えっ……リュウ、本気でハルに惚れてるのか……?」

「まぁ……30過ぎたいい大人のオレが、18も歳の離れた小娘のハルに本気になるなんて、カッコ悪いけどな。オレを幸せにできんのもハルだけだ」


 いつになく穏やかなリュウトの表情を見て、リュウトは本気でハルを好きなのだとアキラは思う。


(リュウのこんな幸せそうな顔、初めて見たな……)


 アキラは、二十歳の頃に叶わない片想いに胸を痛めていたリュウトの悲愴な面持ちを思い出した。


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