第6話 女子高生って可愛い。
田口家の温かさには、いつも癒される——。保住はそう思っていた。確かに、職場であの騒動はないが、それもご愛嬌で片が付くレベルの話だ。
案の定、迷惑そうにしている職員はひとりもいない。観光課の面々もみな、笑顔を見せている。自分が癒されるように、他の人間も然りなのだろう。そう思っていると、ふと一人残っている女性に視線を上げる。
田口の姪っ子だ。保住は彼女のところに歩み寄ると、彼女は笑顔を見せた。保住に話があったのだろう。以前会った時から数年が経過しているが、年ごろの女性の変わりようには驚かされる。中学生の地味な女子だった
「保住さん。すみません。家族がご迷惑をおかけして」
「そんなことはない。銀太の家族が来ると明るくなっていい。それよりも元気そうだな。最近、連絡が遅れがちで申し訳ない」
彼女は首を横に振った。
「いいんです。銀ちゃんも忙しそうだし。きっと保住さんなんて、それ以上に忙しいんだろうなって思っていたから。今日は梅沢に来られてよかった。保住さん、いろいろ相談したいことがあるんです。お時間取れますか」
大人びた言葉遣いに、いつまでも子供扱いをしていたのでは申し訳ないという気持ちになる。保住は笑みを見せた。
「もう受験だな。わかった——」
保住の返答に芽衣は満足したかのように笑うと、会釈をして家族の後を追って姿を消した。彼らがいなくなると、一気に静かになるものである。保住は芽衣を見送ってから、自席に戻ろうとして、はったとした。すぐ隣に大堀が立っていたのだった。
「可愛いですね。女子高生ですか。田口の姪っ子ちゃんだなんて。到底思えないくらいの可愛さだ」
大堀は感嘆のため息を吐いたかと思うと、すぐに訝しげに保住に視線を向けてきた。
「な、なんだ?」
「室長って、なんでモテるんですか。田口がいるんだし。女子高生に手を出してはいけませんからね」
「失敬だな。手など出していないだろう。おれは、勉強の相談に乗っているだけだ」
「またまた。いいですか? 室長。そういう鈍感なところが罪ですね。まったく乙女の気持ちがわからないんだから。鈍臭くて嫌になっちゃう」
大堀に「鈍臭い」、「嫌になっちゃう」と言われても困る。保住はどう対応したらよいのか困惑していた。
「それよりも、あの田口のなまり。ウケる……」
安齋は含み笑いをした。
「『あっちさ案内すっから』だって……」
「田口のなまり、可愛いよね。いつもあれだと面白いのに」
「本当だな。田舎臭くて、あいつに似合っているな」
二人のやりとりは、悪口であることに違いがないが、なぜかそう聞こえないのは、愛情がこもっていると言うことだろうと保住は思った。
それを理解しながら、田口家御一家が消えていった廊下を眺める。彼らの来所は嵐のようだ。あのメンバーを制御できるのは、自分や田口ではない。母親とみのりしかいないだろう。保住はそう確信した。
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