第11話 大堀くんの憂鬱
大堀は牛乳パックにストローを差し込んでちゅうちゅうと吸いながらぼそぼそと小さい声でなにかを呟いた。
「ねえねえ。なんか。今日。みんな変だよねえ——」
彼は隣に座っている安齋に視線を向けた。彼は異様に機嫌がよろしい様子だ。気味が悪いくらいだ。それとは対照的に目の前の田口は、朝からどんよりと暗い。顔色が悪く、お腹を押さえている。体調でも悪いのだろうか。朝も冷や汗を流していた。田口は頑丈そうに見えて繊細なのだろうかと思った。
そして保住。彼も体調は思わしくなさそうだ。顔色は蒼白。目の下のくまが濃い。会議、会議の連続の日なので、ほとんど事務所にはいないが、先ほど書類を取りに来た時には生きている人間なのだろうかと思うくらい蒼い顔をしていた。
「ねえ。大丈夫? 田口」
大堀は心配になって田口に声をかけた。田口が答えるよりも前に口を開いたのは安齋だ。
「田口も疲れているのだろう? なあ?」
「え。あ、ああ……。そうなのだろうか」
田口の返答には切れがない。口ごもる様はなんだか不憫な気がした。大堀は安齋に鋭い視線を向けた。
「安齋がなにかしたんじゃないの?」
「おれが一体、なにをすると言うのだ?」
安齋は心外だとばかりに目を瞬かせているが、そういう態度がわざとらしいのだ。大堀は目を細める。
「だって……。昨日、室長と残業したんでしょう? 今度は室長になんかしたんじゃないの? 室長も元気ないもん」
「おれたちはお前が帰った後すぐに、ここを出たんだぞ」
安齋の言葉に驚いたのは田口のようだ。彼は「え?」と小さい声と共に顔を上げた。大堀はその反応に、何事かあるのだということを理解したが、それがなんだかはわからない。安齋は田口の反応を知らないはずないのに、素知らぬふりをして言葉を続けた。
「いろいろと相談したいことがあって。室長を誘って、赤ちょうちんに行ったんだ」
「え~! ずるい。室長と二人飲み? いいな~。おれも残ればよかった」
大堀はぶうぶうと声を上げる。上司を独り占めだなんて抜け駆けされたような気持ちになる。
ここは同期の横並び。上司にいかに気に入られるかは最重要課題なはずだからだ。なんだか安齋に出し抜かれた感を覚えて田口を見る。
顔色の悪い田口もきっと同じ気持ちに違いないと大堀は確信したのだった。
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