大学生の暴露

「紗月、ちゃんと決めたか?」


 駅を出てフラフラしている未来の横を歩いていると父さんが聞いてきた。


「これからのこと?」


 俺がそう言うと静かにうなずいた。


「決めたよ。 でも何があるかわかるわけじゃないから迷いはあるけどね」

「そうか。 やっぱり紗月も大人になったな」


 父さんは少し寂しそうにつぶやいた。 俺がこっちに残ろうとしているのを悟ったのかもしれない。


 俺は未来の方を見る。 未来は頭をコクリコクリと揺らしながら俺のTシャツの裾を握って何とか歩いている。


「未来」

「んー?」

「お風呂だけは入ろうな」

「うんー」




 *




 家に着くとすぐに未来を風呂場に押し込んだ。 その後、俺と母さんたちはリビングの机に向かい合うようにして座る。


 俺は真剣なまなざしで母さんと父さんを見る。


「俺はこっちに残るよ」

「やっぱりね。 残念だけど紗月なりに真剣に考えてくれただけでうれしいわ」

「ほんとごめん……」


 申し訳ないと思ってしまうがこれでいい。 俺がちゃんと考えた結果だ、恥じることも後悔することもない。 これが俺の気持ちなんだ。


 耳を澄ますとシャワーの音が聞こえてくる。 未来のことも考えてしまうが俺は今の生活が好きだ。 夜遅くまで執筆して未来の作ってくれるココアを飲んでホッとしてから寝る。


 こんなに幸せな生活を簡単に捨てられるはずがない。


「父さん、母さん。 今まで隠してきたことがあるんだ」

「ん、なんだ?」

「実は俺、小説を書いているんだ。 遊びではなくちゃんと書籍化もされている」


 遂に言った。 言ってしまった。 今までかたくなに隠してきた俺の秘密を。


「ああ、そういうことだったのか」

「……え? もっとこう、驚くとかないの?」


 父さんは何か合点がいったような顔で答えてきた。 俺はの方が驚き、聞き返してしまったではないか。


「いや、中学の頃に急にノートパソコンをねだられてずっとパソコンに向かっていたからなあ。 何かやっているんだろうとは思っていたがそういうことだったのか」

「え、じゃあ中学の頃から薄々気づいてたの?」

「まあそういうことになるな」


 なんだよそれ…… それならそうと早めに言って欲しかったな……


「でも書籍化なんて凄いじゃないか! 編集さんとかもいるってことか?」

「いるけどそんなに固い感じじゃないよ? 最近なんかタメで原稿はー? なんて聞いてくるし」


 そう言えば今の担当さんが変わると言っていたな。 今の担当さんも好きだったんだけどな。


「その調子なら紗月はこっちでも心配なさそうだね」

「まあ今のところはね」


 ひとしきり話し終えると未来が髪をタオルで拭きながらリビングに入ってきた。


「つっくんお風呂空いたよー」

「おう」


 じゃあ俺もお風呂入りますか。


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