大学生と父親

 俺と未来はクーラーの利く電車に乗り込み成田へ向かっている。


「つっくんー、お腹空いたー」

「もうちょっとで成田だから空港に着いたらご飯食べような」


 朝ごはんを食べる前に母さんが帰ってきたためご飯を食べるタイミングを失ってしまった。 それに昨日の昼から何も食べていないため俺もお腹が空いている。


 空港ならレストランも多いし父さんと一緒に食べようかな。


「それにしてもつっくんのお父さんと会うのも久しぶりだなぁ。 相変わらずかな」

「そうだな。 三年前の姿しか思い出せないけど変わらないだろ」


 父さんはとても柔らかい雰囲気で常に微笑んでいるようなほんわかしている人だ。 海外で仕事をしたからと言ってそんなに変ってはいないだろう。


 そんなとこを考えていると成田空港駅に着いた。 地下から地上に上がると流石は世界一と言わんばかりの綺麗な内装に思わず目が奪われる。


「こんなに広いのにゴミ一つ落ちていないのって改めて考えると凄いな」

「そうだね、お腹空いたなー」


 未来はお腹に手を当てて訴えてくる。


「わかったよ、さっさと見つけてご飯食べようか」


 俺は父さんに言っていた国際線の出口に向かった。 しかし俺が知っている父さんの姿をした人はいなかった。


「あれ? 父さんのことだから言われた場所にいるはずなんだけど……」

「紗月ー! 久しぶりだなあ!」


 突然後ろから背中を叩かれた。 父さんかと思って振り向くと顔まで真っ黒に焼けていて筋肉ムキムキのおっさんが立っていた。


 え、こんな知り合い俺にいないよ?


「もしかして…… 父さん?」

「もしかしなくてもそうだよ。 ただいま、紗月」


 助けを求めようと未来の方を見ると、未来も状況が理解できないよう口をパクパクしている。


「父さん、随分と変わったね」

「そうか? まあ三年もあれば誰だって変わるさ。 もちろん紗月も大人っぽくなったな」


 もはや変わるの次元ではなく別人なのだが一応父さんと認識しておこう。 俺も高校からは少し背も伸びて髪形も変えている。


 別に大学デビューとかじゃないぞ。 違うからな。


 それにしてもこの見た目で寂しがりやと言うのもなかなかに危ない気がするが声だけは優しいままなのでギリギリセーフか?


「それに未来ちゃんも大人になったねえ。 随分と可愛くなったじゃないか」

「え、えーとお久しぶりです! お父さんこそだいぶ変わられましたね!」


 未来はテンパってしまい、あたふたしながら言葉を返す。 俺も聞きづらかった外見のことに触れるとは相当テンパっているな。


 でもなんで父さんはこんなに筋肉ダルマになってるんだ? 父さんと母さんの仕事って経営関係のマネージャーなのにどうして筋肉がついているんだ?


「ああ、むこうの人と仲良くなって屋外ジムで鍛えていたら少しだけ筋肉がついちゃってね」

「それ少しじゃないでしょ」


 父さんは「え、そう?」とでも言いたげに俺を見てくる。 なんで俺がおかしいみたいな空気になってるんだよ……


「まあ、お腹もすいたしご飯でも食べようよ!」


 俺は誤魔化すのに精いっぱいだった。 まじで誰だよこの筋肉ダルマ……

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