大学生と帰国

 俺は急いで玄関に向かう。 さっき聞こえた声が本当に聞き間違いじゃないのならーー


「母さん!」

「あら紗月、ただいまー。 それにしても未来ちゃん、ほんとに別嬪さんになって!」


 え、反応これだけ? 三年ぶりに会った息子だよ?


 俺は玄関にフリーズしたまま立っていた。 気が付くと母さんはリビングで未来とお茶を飲んでいる。


「それでねー、リトアニアには……」

「母さん、俺になんかないの?」


 一応さっきのが冗談として聞いてみる。 母さんは一瞬驚いた顔をしたがすぐに八重歯が見える笑顔でこう言った。


「なにもない!」

「なにも!?」


 こういう人なのだ。 高校受験で悩んでいた時も「とりまファイト」としか応援してもらった記憶がなく、俺が足を疲労骨折して入院した時も一言電話しただけで終わった。


 うん、この人に親子の会話を求めてはいけないな。


「それで未来ちゃんとはどこまで進んだの? まさか一緒に寝ちゃったりして」

「今日も一緒のベットで起きましたよー」

「まあ! 紗月、あんたも案外ヤルのねえ」


 ヤルって…… 息子に対してこのノリなのはいつも通りなのだが久しぶりすぎて一気に体力が持っていかれる……


 それに久しぶりに帰ってきたというのにくつろぐのが早すぎるだろ……


「そういえば父さんはどうしたの?」

「あ、空港でおいて来ちゃった」


 俺は呆れながらも父さんに電話をかける。


『さぁづぅきぃぃぃ。 ざみじぃいよぉぉぉ』


 電話に出ると同時に地獄からの怨嗟の声が聞こえてきた。 これが父さんだと信じたくはないが声的にに父さんである。


 父さんは極度の寂しがりやで母さんや俺がいないとすぐにその場であたふたしてしまう。 しかしいざ仕事モードに入ると何もかもを完璧にこなすため今では海外赴任先の現場監督にまで昇進している。


 そんな父さんだが、


『むかえにぎでぇぇぇ』

「わかったから。 とりあえず落ち着いて空港で待っててね」

『うん…… 早く来てな……』


 俺は電話を切ると父さんを迎えに行くため着替えた。 リビングに向かうと未来と母さんが仲睦まじく話をしている。


「ちょっと父さんを迎えに行ってくる。 未来は…… どうする?」

「あ、私も行くー! お母さんはお疲れでしょうしゆっくり寝ててください!」

「じゃあお言葉に甘えてたっぷりと寝させてもらおうかな!」


 母さんは今まで開かずの間であった両親の部屋に行ったので俺たちは父さんを迎えに行くために準備をし始める。


 準備が終わり、外に出ると夏の暑さが体を包んだ。 空には大きな入道雲が浮かんでおり額に汗がにじんでくる。


 それにしても成田か…… 結構距離あるんだよなあ……

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