大学生とお風呂

「紗月君ー、おーい」


 どこからか舞先輩の声が聞こえてきて俺は目覚めた。 体を起こしてあたりを見るとここは先輩の店の裏にある空き部屋の様だった。


「あ、つっくん起きた」


 思い出した。 俺と雄二は紅葉ちゃんの制服姿を見て鼻血を出して…… そこから記憶がない。


 ふと隣を見ると顔の原形をとどめていない友人の姿があった。 どうやら先輩にボコボコにされたらしい。


「つっくんは私一筋だよね?」


 俺の横で般若のような顔をした未来が聞いてくる。 その目は笑っていなかった。


「も、もちろん」


 俺がそう言うと未来は安堵した顔で俺の頭を撫でてくれた。 雄二は…… 知らん。


「それでどうしてここに……?」

「ああ、今はもう夜中の一時だからね。 みんな泊っていくらしいから頑張って運んできたんだ」


 俺が慌ててポケットに入ったスマホを確認すると時刻は一時半になっていた。 およそ四、五時間失神していたようだ。


「もしかして俺が起きるの待ってたのか?」

「んーと、待ちつつ女子会してたらって感じ?」


 ああ、そうかい。 わざわざ水を差してしまってすいませんね……


「紗月君もお風呂入ってきたらどうだい? まだ季節は夏だし汗かいたろう?」

「入りたいんですが着替えがないんで」

「それならゆう君のものを用意してあるよ! さあ行ってらっしゃい!」


 なるほど、ゴリラは先輩の家に泊まったりもするのか。 失神してる間にあとで一発俺も殴っておこう。


 先輩に言われた通り洗面所に向かい扉を開ける。


 俺はここで思い出しておけばよかった。 さっきの部屋には先輩と未来しかいなかったことを。


「え、お兄さん?」

「あ、ごめんっ!」


 細い四肢に濡れた髪、顔は火照り水が滴っているくびれのある体。 丁度お風呂から上がったばかりの紅葉ちゃんに遭遇してしまった。


 紅葉ちゃんは俺を見るなりバスタオルですぐに体を隠したが時すでに遅し、俺はすぐに扉を閉めた。


「み、見ました?」

「断じて見てないぞ。 すぐに扉を閉めたからな」


 扉越しに紅葉ちゃんが服を着ながら話しかけてきた。 俺は断じて見ていないと主張しつつ一瞬見えた肌色が頭の中でフラッシュバックしていた。


 しばらくして扉が開きパジャマを着た紅葉ちゃんが出てくる。 パジャマは舞先輩から借りたのか少しサイズが小さく二の腕や太ももが見えてしまっている。


「お、俺はお風呂頂いてくるから先輩たちをよろしくな!」


 紅葉ちゃんが扉から出たのを確認するとすぐに洗面所に入り鍵を閉める。 やっと落ち着き、お風呂に入るために服を脱ぐ。


 ふう、なんか一気に疲れたな……


 早いこと湯船に浸かろうと思いお風呂場に入ると女子が使うシャンプーの甘いにおいが香ってきた。


 そういえば部屋を出るときに「男の人用のは洗面所に置いてあるよー」と先輩が言ってたっけ。


「あ、これか」


 一旦洗面所に出てそれらしきものを見つけて取ろうとすると、


 ガチャ


「お兄さん!?」


 扉を開けた紅葉ちゃんが俺のことを見て固まっていた。

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