大学生とバスタオル

 腕を引っ張られ洗面所に強引に入れられ、俺と未来は対面している。 もちろん未来は素っ裸である。


 やばいやばい持つのか俺の理性!


「つっくん…… お願いがあるの」

「な、なんだ?」


 未来は恥ずかしそうにしながら俺のことをチラチラと見ている。 ほどよく潤んだ瞳が目に入ってドキドキが止まらない。


 俺よ! 据え膳食わぬは男の恥! 覚悟を決めたぞ!


「お願いっ! 背中を流させて!」

「……え?」


 ……え? セナカナガス?


「一回でいいからお願いっ! 舞先輩から聞いてやってみたいなって」

「え、雄二と先輩もうそんなとこまでいってんの?」


 ゴリラよ、今度会ったら問い詰めてやる。


「私もその…… 奥さんらしいことしてみたいなって」

「じゃあタオルを巻いてくれ」


 じゃないと俺がもたない。


「あ、そうだね。 これじゃ恥ずかしいや」

「なんでそんなに無防備なんだよ……」


 そんなことするの俺くらいだよね? 信じるよ未来さん?


 未来はきれいにに畳んであるバスタオルを体に巻き付け俺の方へ向く。


「じゃあつっくん! 脱いで!」

「え!? ここでか!?」

「もちろん」


 じゃあお風呂にでも入っててくれませんか? どこの夫が嫁の前で一枚ずつ脱がなきゃいけないんだよ。


 俺が目で訴えると「わかったよー」と言ってお風呂に入っていった。 それを確認して俺は服を脱ぎ始める。


 二分後、俺は風呂場のドアを開けて中に入る。


「遅いよー、って水着!? 普通タオルじゃないの?」

「未来に何されるかわかんないから一応な」


 普通に何をされるか分かったもんじゃない。


「私がそんなことするわけないじゃんー。 ひどいよつっくん」

「はいはい、悪かったよ。 じゃあ背中よろしく」


 俺はこれ以上話を広げまいと未来に背中を流すように催促した。


 未来はボディソープをスポンジに染みこませ俺の背中に当てる。


「じゃあつっくんいくよ? かゆいところとかあったら言ってね」

「ああ、その時は遠慮なく言うな」


 本当はもうむず痒くて仕方がない。 誰かに背中を流してもらうなんて小学生以来だし相手が未来となると緊張が収まらない。


 背中に当たる柔らかいもの…… いや、スポンジとわかっていても想像してしまう。


 ゴシゴシと音が響いている中、俺と未来は一言とも会話せずに黙り込んでいる。 背中がだいたい終わったか、と思った瞬間未来は石鹸が広がっている床に足を滑らせ体勢を崩す。


「あぶないっ!」


 鏡に反射して未来の体が傾くのが見えた俺はすぐさま振り返り未来に手を伸ばす。 完全にバランスを崩す前に未来の手を掴み手元に引き寄せバランスをとる。


 なんとか転ばずに済んだか…… 


 そう思って未来の顔を見ると、顔が真っ赤になっていて目を瞑っている。


「おい、未来ー。 助けてやったのに感謝の一言もないのかー」


 返事がない。 もしかしてのぼせているのか?


「ったく、しょうがないなあ……」


 俺は未来を担ぎリビングに連れていく。 体はバスタオルを巻いていたためそこまで濡れておらず服を着させればいい状態であった。


 でもいいのか? このままじゃ確実に風邪をひくけどここでバスタオルを外すとなると……


 その後、俺は十分ほど悩み目を瞑ってバスタオルを外し毛布を掛けることで落ち着いた。



『雄二:このヘタレが!』

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