大学生とマイン

『紗月:えっと、なんで俺のマインを?』


『紅葉:あっ! すみません! 店を出る際に未来さんに教えていただきました!』


 はあ、そういうことか。


 未来の方を見てみるとのんきに鼻歌を歌って風呂に行く準備をしている。


「未来、やってくれたな」

「んー? 何のことー?」


 できればもう関わりたくなかった紅葉さんとマインを交換をしてしまった…… 


『紗月:とりあえず、落ち着いて話そうか。 まずはちゃんと自己紹介とか』


『紅葉:了解です! 飯田紅葉いいだもみじ、十五歳です! 家はうどん屋で将来の夢はお嫁さんです!』


『紗月:次は俺だな。 俺は開隆紗月、十八歳で大学生やってます。 夢は…… もう叶えてます』


『紅葉:その年で夢を叶えちゃってるんですか!? うらやましいですぅ……』


 俺の夢はラノベ作家になることだからな。 高校で叶えてるんだよな、これが。


『紗月:紅葉さんの夢はなんとも希望にあふれてるね』


 相手が俺の場合なら一生叶わない可能性だってあるんだよな。


「つっくーん。 準備できたからお風呂行こー」

「ああ、ちょっと待ってなー」


 未来は様子を察してくれたのか座椅子に座りテレビを見始めた。 ちなみに俺はローカル番組しかやっていないのを初日に知って一切見ていないんだよな。


『紗月:悪い、風呂に行くから少し落ちるな』


『紅葉:はーい。 夢があふれたのは紗月さんのおかげですよ~』


 大人をからかうな、と言いたいところだけど俺も大して変わらないなと思い打つ途中でやめた。 そのままスマホを布団に放り投げタオルと着替えの入った袋を持つ。


「もう終わったぞ未来ー。 待たせたしあとでフルーツ牛乳でもおごってやる」

「え、いいの!? じゃあ二本ね!」


 え、そんな飲むの? と思ったが旅行に来てから迷惑かけっぱなしだしいいかなと口に出そうな言葉を飲み込んだ。


 今思い返すと色々とトラブル続きだったな。


 *


「ふうー、体に染み渡るー」


 今日も早い時間のため誰もいない浴場で一人、爺臭いことを言ってみた。


 何の返しもない。 こうなると何か悲しい気がするな。


「それにしても紅葉さんはやけに積極的だったな。 まだ高校一年生だっていうのにあんな元気があるなんて」


 なんて一人で思ったことを口にしても水滴がしたたり落ちる音しか返ってこない。 俺は目を瞑って大事な人を思い出してみる。


 やはり最初に出てきたのは未来だった。 彼女補正もあるだろうがなにより、俺と長い間を過ごして何一つ隠すことなく接することができるからな。


 ここでうっすらとゴリラの顔が出てきたので俺は考えるのをやめ風呂から上がることにした。 最終日だからと言って長風呂する必要もないしな。


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