大学生と一目惚れ

「私は本気ですよ?」

「えっと…… 俺には彼女もいるし……」


 一体何を言っているんだこの子は!? 会って二分と経ってもいないのにいきなりプロポーズをしてくるなんて……

 

 だいたい俺には未来もいるんだしこんなことで動揺してはいけないだろ!


「だったら寝とっちゃえばいいんです! それで万事解決ですよね!」

「はあ!? 寝と、って何言ってるの!?」


 最近の子ってこんなに積極的なの!? ってそんなこと考えている場合じゃないだろ! 今すぐに断らないと……


 それにしてもこの子は随分と自分の容姿に気を使っているみたいだな。 父親を見る限り直毛なんだろうけどちゃんとウェーブがかかっていたり、爪はもちろん肌も綺麗で手入れが行き届いているのが目に取れる。


「あのね、簡単に彼女がいる人に向かってそんなことを言っちゃだめだよ。 それに君は可愛いんだからもっと本心から好きって言える人を探すんだよ」

「お兄さん…… やっぱり男らしくていい人じゃないですか! 先ほどは一目ぼれでしたが今度はちゃんと確信しました。 あなたは私の運命の人です!」


 俺のどこがいけなかったのか、彼女の男気溢れる恋心に火をつけてしまったようだ。


 え、俺悪いこと言った? あきらめてもらうつもりだったのに余計に火に油を注いじゃったよ……


「私、秋から東京に行くことにします!」

「そんなにいきなり決めちゃっていいの!? それに住む場所だって決まってないでしょ?」


 そんな急に東京に引っ越すだなんて、本当にこの子は高校生なのか? と思ってしまうほど突拍子もないことを言い出すから驚くのも当たり前だろう。


 それにこっちにも友達や大事な場所があるだろうに、そんなことをさせては俺が罪悪感で潰されてしまいそうだ。 絶対にそんなことはさせないでおこう。


「住む場所はあります! 今度私のおかあ、母が東京に支店を出すことになったんです! それに高校は入ったばかりであんまり友達もいなかったので」

「そう言われても俺にはどうもこうも……」


 彼女の熱意は伝わったが俺に決定権はないし、そこは彼女とご両親に任せるほかない。 ここで俺ができることと言えば彼女の言っていることに真正面からぶつかってあげるだけだ。


「もともと私も東京に行く予定でしたし、高校の編入試験だってちゃんと勉強すればどうにかなると思います! 私は本気なんです!」

「とても俺に言いきれることではないけどそこまで言うのならしっかりと勉強しろよな。 もし東京に来て俺を見つけたいのならってカフェを見つけて紗月内に来ましたって言ってくれ」


 まあ、一目ぼれとか言っているけどきっと一時の気の迷いだろう。 それに舞先輩のカフェを見つけるのだって相当難しいだろう。


 我ながらひどいな、と思いながら俺は麦茶を飲む。 紅葉さんはと言うと何かを決めたような真面目な顔をして親父さんのところへ向かって行った。


 さて、未来はうどんを作り終わったかな。


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