大学生と田舎娘

「未来ー、七味取ってくれー」

「はいはいー、どうぞー」


 フェリーを降り体力を使い果たした俺は未来にお願いして芦ノ湖周辺で午後を過ごすことにした。 そしてひとまず昼ご飯を食べようと目に入ったうどん屋に入りうどんをすすっていた。

 たまたま入ったうどん屋なのだが調べてみると隠れた名店にリストインされているらしく、過去に食べたうどんの中でも一番と言っても過言ではない気がする。


「美味しいねー! これどうやって作ってるんだろう!」

「確かにこれだけ美味しいと気になるよな。 聞いてみたらどうだ?」


 俺は無理だとわかっていながらも未来に聞くことを勧めてみた。 未来の人当たりの良さと変なところでの勉強熱心さには折れる人も多いからな。


「すみませーん! このうどんってどうやって作っているんですか?」

「なんだい嬢ちゃん。 彼氏さんにでも作ってあげるのかい?」

「それもそうなんですけど、実は私蕎麦屋でバイトをしていてなにかためになればな、と!」


 おい未来、バイトのこと言ったらダメだろ。 その言い方だと絶対無、


「おういいぞ! さっきから嬢ちゃんの食べっぷりには感動していたからな! 技術でもなんでも持っていけ!」

「ありがとうございます! そういうことでつっくん、ちょっと修行してくるね!」

「お、おう……」


 ええええええ!? いいの!? この味が家でも味わえるならそれはそれでありがたいんだけど……


「じゃあ彼氏さんは座敷にでも上がって待っててくれ! こうなったら店も閉めるか!」

「そこまでしてもらっていいんですか!? それなら精いっぱい頑張るのでよろしくお願いします師匠!」

「師匠か、いつか呼ばれて見たかったもんだぜ! こうなったらこの店のすべてを教えてやる!」


 なんかものすごいことになっちゃったな。 で、俺は何をしていればいいんだ? もしかしてこのまま放置?


 *


「あら? お客さん? って何お店閉めてるのお父さん!」

「なんだ紅葉もみじか。 今は俺のすべてを教えてるから未来ちゃんの彼氏さんにでもお茶を入れてあげてくれ」

「なんで私が…… まあお客さんなのよね、ちょっと待っててくださいね」


 店の奥の階段からお店の制服らしき服を着た少女が出てきた。 髪はウェーブがかかっていて、いかにも今どきの高校生って感じである。


「麦茶で良かったですか? 突然すみませんね。 おとう、父が迷惑をかけてしまって」


 紅葉さん? は湯呑に入った麦茶を二つ持ってきて俺に対面するように座敷に座った。 ってそんなことより今お父さんって言いかけたよね!? 何この子、可愛いんだけど!


「いえいえお構いなく、こっちから言い出したことなんで」

「彼氏さんも大変ですね。 それで彼氏さんたちはどこからいらしたんですか?」

「えーと、今住んでいるのは東京ですが……」


 この紅葉さんとやらは東京と言った瞬間、目を輝かせ食い入るように身を乗り出してきた。


「東京!? うらやましいですー! こんな山奥でおしゃれをしても意味のないところなんて嫌です!」

「まあまあ、ここは落ち着いていていいじゃないですか。 ずっと東京に住んでいる身としてはこういう静かなところに憧れるものですよ」


 東京は電車もうるさいし、車は夜中でも引きでクラクションを鳴らすしでもはやうんざりしている。 いっそ田舎に引っ越すのもありかな、と考えているほどだ。


「それにしてもいい男の人ですね。 どうです? 私と結婚しませんか?」

「……えええええ!?」

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