第131話 旅は道連れ世は情け

 結果的に午後3時ごろまで海(というか砂浜)で遊んだ後、民宿に戻ることにした。


「か、奏多君!しっかり!」

「あうぅ……あううぅぅ……」

 正直砂浜をなめていた。まさかこんなに足に負担かかるとは思わなかった。俺の足はガクガクと震え、悲鳴を静かに上げている。


「あー、普段運動しねぇのが祟ってんな。冷やすか?」

「た、頼む。出来れば、めっちゃ冷える奴で」

 やれやれと歩き出すすず。その様子を見た麗華は……


「……」

 何故かしょんぼりとしていた。

 ……麗華と凛、この2人はずっと、どこか2人とも避けている気がした。麗華が海に行けば、凛は砂浜にいるし、凛が海に行けば、麗華は砂浜にいる。

 本当にこの旅行中に、仲直りなんて出来るんだろうか。俺は少し不安になった。


「あー!」

 と、大声が聞こえた。凛の声?何があったんだ?


「ど、どうしたんですか!?」

 麻沙美が走りだす。俺もそれにつられて走りだそうとして、


 ドテッと派手に転ぶ。


「奏多さん!無茶しちゃダメですよ!?」

「わ、悪い……」

 何とか凛の大声が聞こえたところへたどり着くと、そこには……


「だからこうやってスピードが上がっても、落ち着いていれば……」

「お~!うまいねりんりん!」

 凛が、アーケードゲームで遊んでいるようだった。ブロック崩し……ブロック崩し!?


「これ……{アークロイド}じゃないか!?」

「あ、奏多君!そう、アークロイドなの!まさか筐体ごとあるなんて思わなかったよ!」

 アークロイド……かつて一世を風靡したブロック崩しだ。様々なアイテムを駆使しながら、ブロックを破壊すれば次のステージに進めるというベタなルールでありながら、独特な世界観は今なおファンが多い。

 凛も例外ではない。筐体きょうたいに向かう彼女の顔は、無垢な笑みを浮かべている。


「これ、そんな面白いのかよ。あ、奏多。これ氷のうな」

「悪いな。ありがとう。……しかし懐かしいなアークロイド。俺も一度クリアしたことあるぞ」

「本当!?じゃあ奏多君もやる!?」

「いや、ちょっと待てよ!他にもあるぞ!」

 その部屋の中には、4つのゲーム筐体が置いてあった。アークロイドはもちろん……

 格闘ゲームの『獅子伝説』パズルゲームの『ぽよぽよ』そして歴史アクションゲームの『大地を食らう』……どれもレトロゲームだが、こんな場所に筐体が存在しているとは思わなかった。


「それに目を付けるなんて、目が高いねぇ。遼太がゲームが好きだと言うから大金をはたいて購入したんだが……どれも難しすぎるみたいで、気が付けばお客さんが遊ぶくらいになったんだ」

「だって、僕には無理です。どのゲームも難易度が高すぎて……」

 レトロゲームにはよくある難易度の高さだな。でもまさか筐体ごと買うとは……


「そうだ!みんなで何かやる?」

「何か……か。盛り上がりそうなのは獅子伝説だろうな。アークロイドもぽよぽよも集中力めちゃくちゃ使うし、大地を食らうはそもそも1人用だ」

「じゃ、グッパーで分かれよっか!ちょ~ど6人だしね!……あ、えっと……」


 結果的に俺と凛は分かれることになった。くそ、ゲーマーなのバレてんな……

 俺、梓、麻沙美、そして凛、すず、麗華と分かれることに。


「では第一試合です!奏多先輩対青柳先輩!」

 と、麻沙美の声が聞こえて、そこから40秒後。


「……」

 瞬・殺。


「え~、奏多君よっわ~い」

「俺が弱いんじゃねぇ!凛が強すぎるんだよ!」

「仮にそうだとしても奏多君、バーニングパンチばっかり使いすぎ。私が使ってるの当て身キャラなんだから、もっと工夫しないと」

「工夫したわ!十二分なほど工夫したわ!」


 ・ ・ ・ ・ ・


「やめろ!その{えー?工夫してその程度なのー?}目!」

「そんな事より!次は赤城先輩と白枝先輩ですね!」

 そんなことよりって言うのはやめろ!と言うのもなんなので、梓とすずの試合を見ることに。と言っても……この2人は出来るのか?すずは動画配信者でもあるから、こう言ったゲームをかじったことはあるはずだが。

 戦闘が始まる。互いに飛び道具を使ってうまくけん制する。


「これでも、スラシスで結構慣れてるからねこう言うのは!」

「言うじゃねぇか梓!オレだって負けねぇぞ!」

 アーケードゲームの筐体独特のボタンを押す時のパチパチと言う音、レバーを動かす時のガチガチと言う音、その二つが共鳴し、部屋の中に響き渡る。

 ……あれ?自称ゲーマーの俺よりよほど熱い試合してませんか?

 最終的に梓のくのいちのキャラが、すずのムエタイキャラを倒した。


「あぁークソ!負けちまった!」

「イ~エ~イ!かたきは取ったよ!奏多君!」

「凛に勝たないとかたきって言わねぇだろ……」

 そして最後は、麻沙美と麗華。


「……え、えっと……」

 麗華はスラシスで優勝したほどだ。心配は……


「黒嶺先輩。操作方法わかります?」

「え、えっと……」


「スラッシュ攻撃ってどれでやるんですか……?」


 ゲームが違うだろ……と、言っている間にキャラクター選択に入ってしまう。麗華はおろおろとしたまま、適当なキャラを選んでしまう。


「えっ黒嶺そいつ投げキャラじゃねぇか?」

「なげ……きゃら……?」

 そこからかよ……


「言ってあたしも詳しくは知らないんですけど、一応{マチカドファイター}はやった事あるんで……」

 つまり、ゲームすらよくわかってない麗華とはかなりの差があるな……悩んでいた時だ。


「あ、じゃあさ!りんりん教えてあげてよ!」

「……え?」

 突然の指名に驚く凛。しばらくの間、動きを止めた後……


「わ、私はどうやって教えたらいいかわかんなくて……教えるの、下手だから」

「……」

 悩む凛に、俺は……


「でも、学校の先生になるんだったら、しっかり教えないといけないだろ?」

「「え?」」

 凛と麗華、2人が違う感情の同じ言葉を発する。


「確かにお前は人に教えるのが苦手って言ってたけど、それで逃げてちゃなにも始まらないぞ。それに、同じ学年の女の子に教えるんだ。練習にはうってつけだと思うが」

「……」

「た、確かに、色々教えてもらってからやった方がいいですよね。えっと……青柳先輩。こっち座ります?」

「あ、うん」

 椅子に座る凛。そして麗華に対するレクチャーが始まる。


「えっと、まず……」

 要領をあまり得ないが、それでもしっかりと教えていく。ボタンの押し方、コマンド必殺技の出し方、肉薄された時の対処法など。

 そんな凛の話を、静かに聞きながら、コマンド技を練習していく麗華。


「……いいアシストだ。麻沙美」

 俺は小声で麻沙美に言う。


「いえ、奏多先輩の一言がなければ、あたしそのまま始めてましたよ。ありがとうございます」

 麗華に教える凛の表情はうかがい知れないが、麗華が静かにうなずいているのを見ていると、ちゃんと出来ているようだ。


「あ、そろそろ……待たせるのも悪いね。大丈夫かな?」

「あ、はい……ありがとうございます」

 凛が立ち上がり、麻沙美に席を譲る。


「すごいねりんりん!ちゃんと教えられたみたいだね!」

「べ、別に……すごくなんか……」

 何故か少し照れるようにはにかむ。


「……奏多君。いいのかな……」

「何が?」

「黒嶺さんに色々と教えてしまって……緑川さんにとって、不公平じゃない?」

「でも、何も出来ない奴と戦うよりよほど礼があると思うぞ」

 こくりとうなずく凛。


「{旅は道連れ世は情け}っていうだろ?そういうことだ」

「旅は道連れ……か」

 それを聞いて凛は、もう一度にこりと笑った。


 結果的に……


「勝ちました~!」

 麗華は麻沙美にボコボコにされてしまった。


「うう……ごめんなさい……青柳さん、白枝さん……」

 申し訳なさそうにこちらを凛側を向く麗華に、凛は……


「で、でも、ちゃんと出来てよかったよ。黒嶺さん」

「え?」

「ええっと……コマンド投げもうまく決まってたし、それに……あ、あの……とにかく、よかった!」


 ・ ・ ・ ・ ・


 そしてどっと笑いが出た。


「なんだよ青柳!{とにかくよかった}って!」

「りんりん、褒めるの下手すぎるでしょ!」

「慣れてないって感じでしょうね、きっと!」

「お前、急に抽象的になったな凛!」

 それを聞いて、『むー』と頬を膨らませる凛。


「これでも結構必死にやったよ私!へ、下手なのは把握してるし」

「……ふ、ふふっ」

「え?」

 その瞬間、麗華も仮面を脱ぎ捨てたように、大声で笑いだした。


「く、黒嶺さん?」

「ご、ごめんなさい……何だか青柳さんが、とてもかわいくて、お姉様を見ているみたいでした」

「か、かわいい!?どう言う事それ!?」

 そして6人全員で大声で笑った。

 それにしても……麗華から『かわいい』なんて言葉が出て来るなんて思わなかったな。それに、凛に対しての言葉で。あの2人の間に、少しだけ熱量が戻ったような気がした。




 夕食の前に、風呂に入ることにした。風呂と言っても、この民宿には源泉かけ流しの温泉があるらしい。


「んじゃ、風呂入ったらこのあたりで合流しようぜ」

「覗くなよ~少年?」

「覗かねぇよ!特にお前の裸だけは」

 それを聞いたすずは、何故か顔を赤らめ……


「お、オレなら……覗くのか?」

「何言ってんのすずっち……」

 すずが変なことをいきなり言い出したことはさておいて、俺はそのまま男湯の方に入っていった。


 ……その男湯には、すでに先客がいた。


「おっと、すまないな、従業員であるワシが一番風呂に入ってしまった。しっかりせんとーいかんな。銭湯だけに。……って、ここは温泉だったか!はっはっは!」


 ピシャンッ!


 俺は水風呂に入ったわけでもないのに、体の芯まで冷え切った気がした。


「いや待ってくれ!もうすぐあがるから無言で扉を閉めるのは勘弁してくれ!」




問80.『心に衣を着せず、屈託や隠し事のない間柄のこと』と言う意味の言葉は何か答えなさい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る