第105話 暴れ

『NO SIDE!』


『Winner!』

「暇つぶしにもならぬか」


 ドーン!


『THOR!』


「……ふぅ……」

 あるゲームをプレイしている私。画面には、ハンマーを持った筋骨隆々の男が映し出されている。その男の背後で、くのいち姿の少女が拍手を送る。

 ……ちなみにこの男、トールが私のキャラで、背後の少女、カゲヌイはコンピューター。

 中間テストも近付いているのに、私が勉強せずにこれをプレイしているのには理由があった。


 ・

 ・

 ・

 2日前。


「ゲームのイベントですか?」

「その通り。このアビスで、一番強いヴァンパイアかカーミラを決める。ついでにお客さんにも参加してもらおうと思ってね」

 と、店長が言う。

 ゲーム……そういえば久しくやっていない。確か昔『ハイパーマルオペアレンツ』をお姉様と一緒にやったくらい?確かそれもワールド4が難しすぎて2人で投げた気が。

 店長が持ってきたゲームには、見覚えがあった。

 『大激闘スラッシュシスターズ』。略称は『スラシス』確か奏多さんや青柳さんもプレイしていたはず。キャラクター全員が武器を持って戦う、パーティアクションゲームで、確か世界各国でも大人気なゲームだ。

 そのゲームでイベント……うん。まずい。


 私は対戦ゲームが大の苦手だ……


 理由としては、今さら言うまでもないだろう。私は相手の心を読むのが苦手だ。

 だからこう言った対戦ゲームがうまく行く気がしない。でも、それが理由でイベントを欠席するわけにはいかないし……

 幸いゲーム機は家にある。お姉様が『ロングヒットアドベンチャー』と言う運動ゲームをたまにやっているのを覚えている。それで練習すればいいだろう。

 ・

 ・

 ・


 そして今に至る。それなりに操作性に慣れてきたのだが、私が戦うのはコンピューターではなく、人間だ。

 だから対人戦には慣れておく必要があるのだが……どうしよう。お姉様に頼む?でもお姉様はこのゲームやっているかわからないし……


「あっ」

 私は『オンラインマッチ』と言うモードを見つけた。オンラインでなら……人間を相手出来るか(我ながら言い方)。

 このゲームにはチャットも出来るらしいので、せっかくだからわからないことはドンドン質問しよう。そう思って待つ。


「……」

 見ず知らずの相手とゲームで対戦か……少し緊張する。普段からゲームをやってる青柳さんや奏多さんは常にこんな感じなのだろうか?

 キャラクターは……さっきから使っているトールにしよう。と言うかシスターズと言うタイトルなのに男のキャラクター普通にいるんだ。

 そしてマッチングが始まる。この時間に、私の緊張は徐々に高まっていく。

 どうか、私にも勝てそうなお相手に見つかりますように!


『ATHENA!』


「!?」

 見つかった!?お相手は槍使いの女性キャラ、『アテナ』を使用するらしい。

 ……いや、誰!?(キャラ全員出してない)

 お相手の名前を見ると『グレー』と書いていた。ちなみに私はお姉様の本体を使っているので、名前は『あっきー』になっている。


 グレー:よろしくお願いします


 おっと、お相手から挨拶が……私も試合が始まりそうだから定型文であいさつしないと。


 あっきー:お疲れさまでした!


 焦りすぎて1個ずれた!とにかく試合が始まる。

 と言っても、これでも練習してきたんだ。多少は戦闘になれば……


『NO SIDE! Winner!』

「これも、戦いにて」

『ATHENA!』


 惨・敗。


 ただの1回もグレーさんを倒すことが出来ず、3ライフすべて削り切られてしまった。と言うかこのアテナと言うキャラ、範囲は広いし火力は高いしスピードもそれなりにあるし、ずるい気がする……

 『お相手にならなくてすいません』と、グレーさんに送ってみる。……何だかバカにされそうだなぁ。


 グレー:もしかして、始めたばかりですか?


 バレている……?私はチャットを入力する。


 あっきー:はい。実はそうなんです。CPUに勝てるようになってたんで調子に乗ってました

 グレー:誰だって最初はそんなものですよ。もう一戦やってみます?


 そしてその戦闘でも惨敗した。

 と言うより、グレーさんがうまいんだろうか?まるでこちらの動きを読んだように槍による攻撃を的確に当ててくる。


 グレー:トールは動き遅いし、火力はありますが隙も大きいので暴れはあまりやめたほうがいいですよ。そこ差し込まれたらまずいんで


 ……………………あ・ば・れ?


 あっきー:暴れって何ですか?

 グレー:あー、こういうゲーム初めてな感じなんですね。暴れって言うのは相手の攻撃の合間に攻撃を挟んで無理矢理攻撃を阻害する行動の事です。位置によっては有効なんですが、さっきのように相手が近くにいないのに暴れても同じですよ。


 丁寧に教えてくれるなぁ。私なんかのために。


 あっきー:グレーさんの使うアテナってキャラクター、私も使いたいです。

 グレー:あぁ、このキャラクターは初期キャラのアレスでノーマルモードノーコンティニュークリアしたら出せますよ。見た目かわいいしおすすめです。


 そうだったのか。あとで出してみよう。でもとりあえず今はトールの練習だ。

 さっきの『暴れ』だっけ、それを連発する癖さえ直せば何とかなるはずだ。グレーさん相手でも……


『ATHENA!』『ATHENA!』『ATHENA!』『ATHENA!』


『Winner!』

「光の名のもとに!」

『ATHENA!』


 結論、どうにもならない。

 いや、でもグレーさんから一応1ライフは奪えるようになったし、成長した!……と、言えるんだろうか。


 グレー:嫌味っぽく聞こえるかも知れませんが、かなり動きよくなってますね。トール結構扱いが難しいのに、すごいです。

 あっきー:ありがとうございます。


 こんな風にグレーさんから褒められるようにもなったし、私としてはよく出来てる(と、思いたい)。


 グレー:そう言えばあっきーさんって、好きなのはいますか?


 ……え!?急に何の話を!?

 いや、好きなのってどう言う事!?と、思ったが、ここは答えないのも不誠実……ではないだろうか。だが、ちょっと待て。

 私は画面の前で固まっていた。これは世に言う『ゲーム恋愛』の始まりなのかと。

 お姉様から聞いたことがある。最近はこう言ったネットゲームを出会いの場にして、恋愛に発展するカップルも多いと。

 仮にここで私が『います』と答えたらグレーさんは傷付くのだろうか?嘘でも『いません』と言うべきだろうか?

 ……迷った末、私の出した答えは……


 あっきー:います。


 だった。


 グレー:あぁ、だったら

 あっきー:好き……と言うか、なんというか、その人の事を考えるとドキドキしちゃうんです。


 私のチャットを打つ手は止まらない。


 あっきー:同じ学校の人なんですけど、なんというか、常にいろんな人に尽くしてくれて、その人が脳裏に焼き付いていて……

 あっきー:でも、なんというか、ダメな気がするんです。その人は他に好きな人がいるかも知れなくて……


 ……書いてみて、私は再び思い出した。

 あの時の青柳さんの視線……そして、あの頬の赤らめ方……やっぱり、青柳さんも……


 奏多さんの事が、好き?


 ――じゃあ聞くけど、もしジンクスが通用して、灰島君が他の人のものになったら、どうする?

 ――えっ……!?


 ――そ、それが、灰島さんの望みなら……確かに灰島さんにはお世話になっています。だからこそ、その方が本当に幸せになれるなら、その選択肢を……


 と、お姉様に言ったことがあるが、今は少し違う。

 青柳さんのあの行動が、気になって仕方ない。

 でも、どうして?自分で言ったじゃないか。奏多さんが幸せになれるなら、それでいいと。

 だったら、どうして?何だ?この気持ちは……?


 グレー:……あの……

 グレー:スラシスのキャラの話なんですけど……


 ……へ?


 グレー:いや、初心者なのにトールを使うということは、相当このキャラが好きなのかな?と思いまして。

 グレー:それで『好きなのはいますか?』と聞いたんですけど……

 グレー:そもそも僕、ネット上で出会う人の恋愛に興味ないですし示したくもないですし……


 ……………………

 私は本当の意味で、暴れたくなった。もちろん、よからぬ勘違いをした自分自身に。


 グレー:でも、素敵だと思います。

 グレー:それだけ好きな人の話を出来るということは、あなたが好きな人はきっと幸せですよね。


 しかも空気まで読ませてしまった。あらゆる意味で負けだ……

 負け……?ん?

 なんだろう?今の変な感覚は……?何故か、青柳さんと奏多さんの顔が思い浮かんだ。

 それになんだか黒い炎が、燃えている気が……?


『Winner!』

「闇は、討ちます!」

『ATHENA!』


───────────────────────


 月曜日……


「スラシスの大会で優勝したんだって!?」

 赤城が大声で言う。


「えぇ。結構練習した甲斐がありました。大会と言っても、店側がこじんまりと開く大会だったんですが……」

「それでもすごいです黒嶺先輩!おめでとうございます!」

「そっか、お前もスラシスやってんのか。今度オレとやってみるか?」

 口々に話をする。


「スラシス……そういやこの間変な奴にネットで会ったんだよな」

「変な奴?」

 凛に聞かれて話を続ける。


「あぁ、名前は忘れたんだけど」


「初心者なのにめっちゃ使いづらいトール使ってボロボロに負けてたし。好きなキャラはいるかって問いに急にリアルの話しだすし。あと暴れが多いって指摘しても結局暴れてばかりだったしなぁ」


 その話を聞いて、ガァン!と、何故か黒嶺が学食の机に突っ伏した。


「……どうした?」




問63.次の英語を和訳しなさい。

『Rain Shelter』

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