第48話 リトルアドベンチャー

 みなさんこんにちは!初めましての方は初めまして!

 わたしの名前は灰島 空!兄である灰島 奏多の妹です!

 お兄ちゃんとは違って中学1年生ですが、お兄ちゃんのために毎日サポートしてます!

 朝ご飯、晩ご飯を作ったり!色々やってます!

 今日は久しぶりに休日なので、のんびりゲームを……


「?」

 電話が鳴りました。


「もしもし?」

「あぁ、空か?ちょっと悪いんだけど、家に教科書忘れちまったんだ」

「え?……お兄ちゃんの部屋入っていい?」

「あぁ。大丈夫だ。確か机の上に乗ってあるはずだから」

 お兄ちゃんの部屋に入ると、机の上にありました!教科書です!


「これ?現代文の?」

「そう、それだ。それを届けてほしいんだけど……頼めるか?」

「うん!大丈夫!」

 お兄ちゃんのため、頑張らないと!わたしは教科書を持って家を飛び出しました!

 図書館の場所はわかりませんが、地図アプリを使えば何とかなるはず!

 これはいわゆるアドベンチャー!わたしは意気揚々と図書館に向かいます!




 そして……


「あうぅ……」

 完全に迷子、です……

 地図アプリを見てきたはずなのに、全然図書館が見つかりません。確かに言われたとおりの場所に図書館があるはずなのですが……

 前後左右がわからなくなり、どう歩こうか迷います。

 人に聞こうにも……


「あ、あの……」

 わたしの人見知りが邪魔して声が出せません……

 ……人見知り……


 ――嫌だ……!お兄ちゃんがこんな目に遭っちゃうんだもん……きっと学校なんて、ひどい場所なんだよ……!

 ――学校なんて嫌だ……行きたくない……!


「……」

 慌てて首を振ります。もう過去の話ですし。


「お?」

 その時、女の人がこちらに向かってきます。


「確か君、この間昇陽祭で焼きそば買ってくれた……」

「え?……こ、こんにちは」

 ん?この女の人、どこかで見たような……だって、わたしと、『灰島』って名前を知ってるし。


「あれ、あぁ。あんま話してなかったよな。ほら、後夜祭の時オレんとこの焼きそば買ってくれたろ?」

「え……?あ、あの時の!?」


───────────────────────


 それは、父さんと母さんに連れられてやって来た、昇陽祭の後夜祭の時でした。


「おぉ~、結構並んでる……」

 出店で出ていた焼きそばの屋台に、わたしが並びます。そしてわたしの番になりました。


「え、えぇっと、焼きそば4個ください!」

 1個は自分、1個はお兄ちゃん、2個はお父さんとお母さん用です。


「おぉ、わかった」

 そこに立っていた女の人は、手際よく焼きそばを炒めています。すごい……わたしよりすごいかも。


「お疲れですか?」

「……まぁ疲れてねぇって言えば嘘になるな。でも出しもんだし、最後までやり切るよ」

 そうしているうちにソースの香ばしいにおいです。そして十分に炒まったところで、パックに入れて……


「ほい、4個で800万円な」

「はい!……えぇ~~~!?」

 わたし、目玉が飛び出る勢いでした!


「……」

 財布の中には1000円(分の、金券)しか入ってません……


「あ……あ……あうぅ……」


「は、8000回払いでお願いします……」

「あ……いや……4個で800円」


 そんな絡みをした後、お兄ちゃんに焼きそばを持っていって、わたしも食べてみます。

 ……うまっ!なんというソースのちょうどいい味わい。そしてなんという麺のちょうどいい硬さ!そしてなんというわたしの語彙力の少なさ!

 これをさっきの女の人が作った……?すごい!わたしもこんなおいしい焼きそばを作りたい……

 でも、名前を聞いてなかったんですよね……お兄ちゃんの知り合いかどうかもわからないし……また会えるかな……


───────────────────────


 ……意外とすぐ会えました。


「灰島にこんな妹がいたとはなぁ。オレには妹がいないから羨ましいぜ」

「それより悪かったな、白枝。わざわざ送り届けてくれて」

「あぁ。てか忘れもんすんじゃねぇし、妹に持って来させんなよ。オレに会えなかったらこの子完全に迷子だったぞ」

 お兄ちゃんと白枝さんが話しかけている中、キョロキョロ辺りを見回すと、お兄ちゃんの周りには、5人白枝さんを含めて5人の女の人。

 中には青柳お姉ちゃんもいました。でも、あの赤い髪の女の人、どこかで見たような?


「……」

 そして私は思いました。もしかしてお兄ちゃん……


 リア充!?


 いや、アニメやゲームでしか見たことないけど、お兄ちゃん、こんな多くの女の子に囲まれて……!


「ん?どうした?空」

「え?いや、何も。皆さんの勉強になったらいけないなって……」

「大丈夫ですよ。騒いだりしない限り邪魔にはなりません」

 黒いドリルヘアの女の人が言う。


「しかしがり勉君も隅に置けないな~!こんなかわいい妹がいながら、あたしたちに勉強教えてんだから~!」

「例えるならこのお姉さんのように」

「む~れいれい、それはさすがに言いすぎだよぉ」

 『れいれい』さんはそう言いつつ、少し笑っているようでした。


「じゃあ灰島{先輩}」

 先輩……?え!?じゃあお兄ちゃんの後輩!?

 お兄ちゃん……もしかして後輩の女の子にも手を!?(言い方)


「空ちゃんに勉強を教える事って、よくあるんですか?」

「いや、あんまりないな。こいつ勉強嫌いだから、自分から勉強することもあんまりないんだ」

「勉強嫌いのその気持ちわかるなぁ。あたしだって本当はやりたくないもん勉強!」

「じゃあなんでこの勉強会にも参加してんだよ梓」

「だ、だって……大会の前に補習は嫌だし……」

 その話を聞くと、5人はとても仲良しな気がします。


「……もっとも、勉強を嫌いになる意味がわからないけど」

「「それは余裕があるからだよりんりん(青柳)に!!」」

 ふうっと息を吐く青柳お姉ちゃん。


「……青柳、今回は大丈夫なのか?」

「うん。今のところは父さんも兄さんたちも何も干渉してきてない。……大丈夫。今回は……みんなに心配をかけない」

「……隠し事は、もうダメですからね」

 こくりとうなずく青柳お姉ちゃん。……隠し事……?




 適当に本を持ってきて、お兄ちゃんたちの邪魔にならない場所で読みます。……でも、お兄ちゃんたちの事は少し気になる……

 そこで、本の影からお兄ちゃんの方をちらりちらりと覗くと……


「{それを聞いた「余」は、人と倫敦塔ろんどんとうの話をしないこと、また二度と倫敦塔の見物に行かないことを決めた}つまり我に返ったわけだな。すべて夢か幻かの出来事と分かった以上、もうここにいる意味はないと主人公、つまり{余}が誓ったわけだ」


「違う、ここは{彼らの}だから{Your}じゃなく{Their}が正しい。同じように{彼女らの}なら{They}になるぞ」


「大坂冬の陣では真田信繁、つまり真田幸村が真田丸と言う出城を作って徳川軍を迎え撃った。その後和睦を求めた際、真田丸は真っ先に取り壊す事になってしまって、それが致命傷になってしまうんだけどな」


「例えるなら牛乳もコロイド溶液だ。水の中にタンパク質や脂肪の粒子が混じっている。溶液と言うくくりを取り払えば、乳製品はすべてコロイドだ。言うならば豆腐も大豆ににがりを混ぜるわけだから、あれもコロイドだな」


 すごい……お兄ちゃん、まるで先生みたい。

 それに教えているお兄ちゃんは、なんだか生き生きしているように見えました。

 あの時の……覚めない悪夢にうなされたような顔とはまるで別人です。

 この女の人たちに出会ってから……お兄ちゃんの青春がまた始まったのかも知れませんね。


「……」

 わたしは満足した顔で、再び本に目を落としました。




「ん?もうこんな時間か」

「あ、やっべ。オレそろそろ帰らないと」

 午後4時半。気が付けば4時間半も勉強していたんですね……わたしはと言うと、ついさっきまで寝てたんですけど。


「すずっちはいっつも、日曜日は早く帰るよね。あたし、途中まで送るよ」

 赤城さん、白枝さんが椅子から立ち上がって。


「2人とも、また明日な」

「うん!また明日ねみんな!」

「青柳、明日は弁当作ってくるから」

「……!うん!」

 先に図書館を出て行きます。お弁当……?


「では、あたしたちも帰りますか」

「そうだな。おい、空も帰るぞ」

 それを言うと皆さんが荷物をまとめ始めます。わたしも急いで立ち上がってお兄ちゃんのそばへ歩み寄ります。


「やはり図書館は勉強がはかどりますね」

「あぁ。静かだし、何より全員と面と向かえるしな」

「……」

 普通に話しているようですが、お兄ちゃんはとても楽しそうに見えました。……わたしも嬉しいです。

 今までふさぎ込んでいたお兄ちゃんが、こんな風に自発的に話したり、笑ったりして。

 もう、あの時の悪夢は起きないんだなと、わたしは確信していました。


「ところで」




「黒嶺」


「……!?」

 黒嶺……!?その名前を聞いた瞬間、わたしは固まりました。

 この名前は……!


 ――ごめんなさい……アタシも……頑張ってみたんですけど……

 ――灰島君は……もう、守れません……


「……」


 ――黒嶺 あきら先生だ。ほら、挨拶しろ。空。

 ――いいよいいよ灰島君!灰島君と違って、こういう子は自発的に挨拶を待つものだよ?


「ら?……空?」

「!?」

 お兄ちゃんの声で現実に戻ります。


「その……悪かった。今日はお前に迷惑かけて……せっかくだし帰りは、ラーメンでも食いに行くか」

「本当!?」

 目を輝かせると、何故か青柳お姉ちゃんと、黄緑色の髪の人、そして……黒嶺さんも目を輝かせていました。


「なんでお前らまで……あぁもう仕方ねぇ。ただしお前らは割り勘だぞ!」

「「「やった~!」」」

 はしゃぐ3人の女の人。……その輪の中に、わたしも入ります。

 でもどうして……忘れかけていたのに……どうして黒嶺って名前の人が……?

 ……同じ名前なだけ……?


 うん。そうですよね。そうに決まってます。

 わたしは無理矢理納得して、4人に交じって歩き始めました。


「……」

「……?」

 黒嶺と呼ばれた人が、わたしからそっと目を伏せて逸らしたことに気付かないふりをしながら。




問34.効力のないものを薬と言い聞かせることで、効力を引き出させる効果の事をなんというか答えなさい。

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