鬱ゲー転生。 知り尽くしたギャルゲに転生したので、鬱フラグ破壊して自由に生きます【旧題】泣きゲーの世界に転生した俺は、ヒロインを攻略したくないのにモテまくるから困る――鬱展開を金と権力でねじ伏せろ――
第200話 外国人キャラは空気を読まなくても許される(3)
第200話 外国人キャラは空気を読まなくても許される(3)
(思う思う。でも、残念ながら成瀬祐樹にとってのそのポジションはみかちゃんががっちり占めてるので効きませーん)
俺はそんなことを考えながら、タブラちゃんの手を引いて、そそくさとアトラクションの外へと出る。
あー、またちょっとフラフラする。
船から降りた直後みたいな感覚だ。
「思う訳ないでしょぉ、あんたってまるで、『カカオ農園で働くガキにチョコレートを食わせるテレビクルー』みたいねぇ。残酷ぅ」
アイちゃんが顔をしかめた。
そのままコーヒーカップの縁に足をかけ、一っ飛びで外へと出る。
まあ、そういう考え方もあるよね。
世知辛いけど、残酷なくもソラワールドで生き残るためには、正しい思考法ともいえる。
「――ウチはあまりテレビとか観ないからよくわからないけど、ものすごく馬鹿にされてるのは分かる」
ヘルメスちゃんは横着せずに、コーヒーカップから立ち上がり、不愉快そうに眉を寄せた。
「じゃあ分かるように言ってあげましょうかぁ? あんたは脳みそ桃色蛆虫満載のクソビッチってことぉ。お分かりぃ?」
アイちゃんがマガジ〇マンガに出てくるようなヤンキー座りの格好で、ヘルメスちゃんにガンを飛ばす。
「またそんな汚い言葉を使って。あーあ、いつからこんな夢のない子になっちゃったのかなぁ。昔のアイは、ウチにベッドタイムストーリーをせがむような、かわいい子だったのになあ」
ヘルメスちゃんが懐かしむように呟く。
「今でも好きよぉ。アタシはとっても優しいからぁ、あんたを主役にしてあげるわぁ。舌切りスズメか、人魚姫か選ばせてあげるぅ」
アイちゃんが殺意をみなぎらせて、獲物にとびかかる前の猫のような姿勢になった。
「まあまあまあ。ひとまず、俺はちょっと休憩するので、どうしても喧嘩したいなら、俺とタブラを巻き込まないところでやってくれ」
俺は近くのベンチに腰かけて、なだめるように言う。
タブラちゃんは俺を気遣うように頭を撫でてくれている。
「はあ、とりあえず、あの様子じゃウチには全くときめいてないみたいね。ユウキは」
ヘルメスちゃんは肩をすくめた。
「当たり前でしょ。あんたごときに落ちるマスターならぁ、アタシがこの手で殺してるやるわぁ」
アイちゃんは立ち上がり胸を張り、つけ爪を陽光にギラつかせて呟く。
よかった。ヘルメスちゃんにデレデレしないで。
アイちゃんは殺ると言ったら殺る女なのだ。
「ともかく、ヘルメスさんもこれ以上俺をつついても何も情報が出ないことは分かったでしょ。せっかくだから、二人で親睦を深めてくれば? タブラの面倒は俺がみるから」
俺はタブラちゃんを隣に座らせていう。
俺は百合の間に挟まる男にはなりたくないので、存分と姉妹でイチャイチャして欲しい。
「うーん、それじゃあお言葉に甘えちゃおうかな。ユウキは、グイグイこられるのが苦手みたいだし、押してダメなら引いてみるってことで」
ヘルメスちゃんが、からかうように俺のおでこを突いて呟く。
「なあにぃ、マスターぁ、アタシを裏切るつもりぃ?」
「裏切るもなにも、勝負を受けたのはアイだし、負けたのもアイだしね」
「ひどぉぃ、薄情なご主人様ねぇ」
アイちゃんが大げさに傷ついたような顔で泣き真似をした。
「じゃあ、ちょっとこの生意気なワンちゃんを借りていくわね」
ヘルメスちゃんがアイちゃんを連れて去っていく。
まあ、アイちゃんが本当に嫌なら、問答無用で姿を消しているはずだ。ということは、なんだかんだで逃亡しない程度には、ヘルメスちゃんと一緒にいてもいいと思っているのだろう。
「――じゃあ、タブラ、どこか行きたいとこある?」
「……!」
タブラちゃんは瞳を輝かせ、ぱっと立ち上がる。
(まだまだハードな一日になりそうだな。まあ、アイちゃんの『無茶苦茶』から俺を守ってくれたタブラちゃんへのお礼と考えれば、安いものだな)
そんなことを考えつつ、俺は大きく伸びをして気合いを入れ直した。
* * *
アイちゃんとヘルメスちゃんを見送った俺は、その後、一日、タブラちゃんに引っ張り回されながら遊園地を満喫した。
中々に疲れたが、前世では遊園地に行く機会など滅多になかったし、アイちゃんの無茶苦茶から守ってくれたタブラちゃんへのお礼と考えれば安いものであった。
最終的には他のみんなとも合流し、観覧車に乗ったりしてから、グッズショップでぷひ子へのお土産を大量に仕入れた俺は、バスで帰路につく。
「それで、どうでしたか? アイとの距離は縮まりましたか?」
俺は横のヘルメスちゃんにそう問いかける。
彼女はバスに乗るなり、俺氏攻略宣言の有言実行とばかりに俺の隣の席を確保してきたのだ。
まあ、俺の膝の上にはお眠モードのタブラちゃんが座っているので、甘い雰囲気にはなり得ないんだけどね。
「ええ。順調よ」
ヘルメスちゃんは満足げに頷いて、後ろを振り返り、一瞥をくれる。
アイちゃんは最後尾の荷棚で、香猫座りで目を閉じている。
まるで不貞腐れた猫のような態度であった。
アイちゃんにとって、今日は不本意な一日だっただろうか。
外面上は不機嫌に見えるが、アイちゃんはああ見えて複雑な精神構造をしているからなあ。意外と内心では姉と二人の時間を楽しんでいたのかもしれないと思うのだが。
「そうですか。お友達になれました?」
「いえ、むしろ、完全に敵に認定されたわ」
「それ、大丈夫ですか?」
「まあ、無視されてるよりは一歩前進だと思うわ。ほら、よく言うでしょ。『好きの反対は嫌いじゃなくて無関心』って」
「……そうですね」
一般論的にはマザー・テレサ理論が正しいのかもしれないが、善意は敵意に変わり、敵意は敵意のままでしかないのがくもソラワールドである。
原作のように姉妹での殺し合いに発展しないか心配なところだ。
まあ、争奪の対象が俺である間は、危ないのは俺の貞操だけで済むからいいけど。
もちろん、ぷひ子へのフォローはバリめんどくさいけどな。
「心配しなくても大丈夫よ。なにも本気でユウキを取って食おうって訳じゃないから、アイの気を引くために、ユウキはそれっぽいフリだけしてくれればいいの」
俺の懸念を知ってか知らずか、ヘルメスちゃんは悪戯っぽく笑って、小声で俺にそう耳打ちしてくる。
やっぱりそうか。
当然、俺とて察してはいたが、改めて本人の口からそう言ってもらえると安心である。
「なるほど。では、もうしばらくこっちに?」
「ええ。アイの件ももちろんだけど、他の子たちとももうちょっとじっくり話す時間が欲しいし。少なくともミケが帰りたいって言いだすまではいさせてよ。私の仕事はミケと仲良くすることなんだから、あいつがいれば場所はどこでもいいわよね?」
ああ、みかちゃんに
「ええ。もちろん。大歓迎です」
俺は快く頷いた。
機密とか呪いフラグとか色々あるので、ミケくんを長時間近場で活動させておくのはあまり気が進まないが、ヘルメスちゃんの発言は筋が通っているので、拒否する理由もない。
環境が変われば気分も変わる。研究所とは違う(表面上は)のんびりとしたこの田舎で、ヘルメスちゃんとミケくんの仲が進展するかもしれない。それが無理でも、ひょっとしたらミケくんが他のヒロインと恋に落ちて、俺の心労の種が一つ減るかも。
そうポジティブに考えよう。
「そう。よかった。ミケの方にはもう話を通してあるから」
ヘルメスちゃんがほっとしたように言った。
根回し済みか。
観覧車に分かれて乗った時にでも話したのかな。
「そうですか。ミケさん、こちらにしばらく滞在されるとのことですが、お仕事の方は大丈夫ですか? その期限とか」
俺は通路を挟んで右隣にいるミケくんに確認を取る。
「うん。まあ、さすがに一年も二年もかけるという訳にはいかないけど、それほど急ぐ用事でもないからね。君たちにはご迷惑かもしれないけど」
ミケくんは右隣に座っていた平娘ちゃんとの談笑を止めて、にこやかに答える。
ミケくんの俺への興味は、出会った頃に比べると若干薄くなっている気がする。
この感じだと俺を観察するためというよりは、ヘルメスちゃんを気遣って滞在を決めたって感じっぽいな。
もちろん、俺としては油断できないから、引き続き監視要員を配置し続ける必要はあるけど。
「そういうことであれば、何の問題もありませんね。ゆっくりしていってください」
俺は打算と不安を心の内に隠しつつ、朗らかにそう答えるのだった。
============あとがき====================
もううんざりしてるかもしれませんが、キリの良い話数なので宣伝させてください!
ファンタジア文庫様に、本作『鬱ゲー転生。 知り尽くしたギャルゲに転生したので、鬱フラグ破壊して自由に生きます』の書籍版の特設ページを作って頂きました!
表紙とか諸々載ってるので、よろしければ覗いてやってください!
https://fantasiabunko.jp/special/202202utsuge/
試し読みはここまでお付き合い頂いた皆様には不要かと思いますが、DL版にはおまけSSがついているので、落として頂いてもいいかも。でも、本当に申し訳程度のおまけなので、期待しないでください。
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