第148話 俺の幼馴染と婚約者と任侠娘が修羅場っている(2)

 タッタッタッタッタッ!




「あ、あの、マスター! お取込み中のところ、すみません!」




 弁解する俺の所に、今度は、明後日の方角から部下娘ちゃんがこちらに駆けてきた。




「ごめん! 今取り込み中!」




「いえ――、その、お母さまからです。お忙しいことは重々承知なのですが、話を伺うに、状況を加味しても出られた方がよろしいかと」




 部下娘ちゃんが電話の子機をこちらに差し出して、申し訳なさそうに言ってくる。




「ああもう! わかった! 貸して!」




 俺は部下娘ちゃんから、子機をひったくるように受け取る。




『祐樹ですか』




「母さん! 後にしてくれないかな、今、俺、とっても忙しいんだけど」




『そう時間は取らせません。ただの報告です。例の問題に対処するための人材を、そちらに派遣しました。何度かそちらからこちらへ連絡をしていたようですが、彼女を緊急にミッションから呼び出すのに手間取り、応答できませんでしたので』




「ん? どういうこと?」




 俺は震える声で問うた。




『ダイヤをそちらに遣ります。あなたは、彼女と婚約しなさい。とはいえ、口だけであなたとダイヤが婚約すると言っても、向こうの財閥は信用しないでしょう。ですから、ダイヤとあなたが仲睦まじいところを、あの男の妹――シエルと言いましたね。彼女に、存分に見せつけてやりなさい。あなたとダイヤは、幼少期に研究所ですでに婚約していたということにしておきなさい』




「母さん。ごめん。マジで言ってる意味が分からない」




 嫌な予感に、俺の全身に鳥肌が立つ。




『ダイヤは、私の研究所の呪術的テクノロジーと彼の財閥の遺伝子技術を融合させた最高傑作です。彼女に対する出資比率も、うちと彼の財閥で平等ですから、ダイヤと婚約しても、一方的に財閥側にイニシアチブを取られることもありません。従って、ダイヤと祐樹が婚約すれば、穏便に財閥と研究所とあなたの勢力を深化させることができます』




 ママンがとんちを思いついた一休さんのような口調で言った。




(いやいやいや、ダイヤちゃんが遺伝子技術で作られたデザイナーチャイルドだってことは知ってたけどさ! 出資比率とかまでは知らねーよ! 原作にはそんな細かい所までは出てこないし)




「ちょっと待って、母さん! 勝手にそんなことを決められても困るよ! 俺には俺の事情があるし、そもそも、ダイヤさんは母さんの切り札でしょ! 手元においておかなくちゃ! 危ないよ!」




『あなたが気にする必要はありません。私のことはどうとでもなります』




 ママンがふと優しさのにじませた声で言った。




(わが身を危険に晒しても、俺の方を優先してくれるって訳ね! その気持ちは嬉しいけど、ありがた迷惑だよママン!)




 ああもう! 変なところで親の愛情を爆発させないでよね!




「そう言われて、『はいそうですか』とは答えられないよ。母さん。俺にも意地がある」




『人の厚意は素直に受け取っておくものです。――大丈夫。何も心配することはありません。ダイヤは誰よりも命令に忠実なエージェントです。戦力として使うにしても、情欲のはけ口にするにしても、あなたにはメリットしかない話です』




 ママンが朗らかにヤベーことを言い始める。




(俺にメリットしかない? んな訳ねーだろ! ふざけんな!)




 いや、ダイヤちゃんは確かにチートだけど、もしこの案を受けた場合、シエルちゃんと婚約した時と比べて、お兄様が俺に図ってくる便宜のレベルは下がるだろう。




 しかも、続編のヒロインとの深い因縁ができるという、ギャルゲー主人公的にめんどいことばかり。




 軍隊は数、工業はスケールメリット。




 俺はお兄様の技術が欲しい。ママンの呪術学的なテクノロジーは、続編遺跡ブートキャンプチートで間に合ってるから、正直、あんまりいらない。




 チャラチャラチャラチャラチャーン!




 また鳴り出す携帯の着メロ。映画コマ〇ドーのBGM。




 これは兵士娘ちゃんか。




「なにかあった!?」




 俺は左手で携帯をいじり、右耳へとつける。




 もちろん、左耳は電話の子機をつけたまま。




 なんだよ。この社畜スタイルは。バブル期のリーマンかよ。24時間働けますかってか?




「マスター! 対空レーダーに未確認ヘリの反応がありました! 『力』も感じます。撃ち落として構いませんか!?」




 兵士娘ちゃんが切迫した声で言う。




「ダメダメダメ! 撃ち落とさないで!」




『どうやら、ダイヤは無事、そちらについたようですね。では』




「ちょっと! 母さん! 母さん!? まだ話は終わってないよ! 母さああああああああああああああああああああん!」




 ブチっと、また、一方的に切られる電話。




 ババババババババババババババババババババババババババ!




 近づいてくる大きなプロペラ音に、俺の呼び声はかき消された。

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