第145話 祐樹カンパニー緊急会議(2)

 もはや馴染みとなった番号にかける。




 ママンから婚約の許可――すなわち研究所がこの件に関して中立であることの保証をもらうのが最低ライン。




 できれば、ママンの方からお兄様に対して、俺を使い潰すような真似はしないようにプレッシャーをかけてくれるとありがたいけど、それは望み過ぎかな。




 ま、ともかく、ビジネス抜きにしても、ママンも息子から結婚について相談してもらえないとこっそり傷ついてスネちゃうしね。




「――なんですか」




 五回くらいのコールの後、不機嫌そうな声が応答する。




「うん。実は今、俺の人生に関わる重要な決断を迫られていてさ。母さんにも話を聞いて欲しいと思って――」




 会話の寄り道を嫌うママンに合わせて、俺はかいつまんで状況を説明した。




「……。事情は分かりました。彼の財閥と縁戚関係を結んでおくこと自体は、安全保障から考えても悪くないでしょう。しかし、財閥トップの妹とあなたでは、家格があまりにも釣り合っていない。取り込まれますよ」




 いつもマジなトーンのママンが、さらに声を低くして言う。




「確かにそれはちょっと心配なんだけどさ。正直言って、今の俺に断る選択肢はないから、時間稼ぎという意味でも受けるしかないんだ」




「問題ありません。この件はこちらで対処します。あなたは、返答せずにそちらで待機しているように」




「え、それってどういう――」




 カチャ。ツーツーツーツー。




 俺がママンの真意を問おうと口を開いた途中で、一方的に電話が切られた。




(……ちっ。何度かけ直しても出やしねえ)




 俺はストーカー並のリダイヤルを連発するが、それ以降ママンが応ずることはなかった。ママンは相当焦ってるっぽいな。まあ、ママン視点だと、かわいい息子が鬼畜お兄様に取られてしまいかねないピンチだしね?




(でも、ちょっと何か嫌な予感がするなあ。クロウサでワープして、ママンに直接会った方がいいか? だけど、さすがに絶海の孤島にワープしちゃうと、移動手段を追求されるよなあ)




 兵士娘ちゃんの能力――じゃごまかせないか。そもそも彼女たちはママンの研究所から連れてきた人材だから、向こうも兵士娘ちゃんの異能のジャンルぐらいは把握している。ワープ能力があるチート娘なんていたら、ママンが手放すはずがない。




 クロウサチートの種を明かしてまで、今すぐにママンに会うべきか――と考えると、うーん、さすがにそれはNOだろ。




(まあ、悪意はなさそうだし、またかけ直すか。――あっ、ママンに電話した以上は、パパンにも一応報告しておかないと)




 俺は気持ちを切り替えて、パパンへと電話をかける。




「――どうした? 金ならないぞ」




「いや、お金はもういいよ。今日は、俺の人生に関する重大な話が持ち上がっていて――」


 俺は再び事情を説明する。




「知らん。お前の好きにしろ」




 俺の話を聞き終えるなり、パパンはそう即答し、電話を切った。




 何カ月ぶりかの親子の会話は一瞬で終了してしまう。




(ったく。俺の家族はコミュ障ばかりか?)




 まあ、パパンは研究一筋の考古学馬鹿なので、あんまりこういう政争とかは好きじゃないからね。しょうがないね。




(ああ、もうこんな時間だよ。とりあえず、明日一番にママンに連絡を取って婚約受諾を確定させて、ぷひ子に婚約の話が来ていることを伝えて、それから、虎鉄ちゃんの告白を断って――ああもう、忙しい。寝る!)




 俺は午前0時を回りかけている時計を一瞥し、床につく。




 ちゃんと睡眠時間を確保して、明日に備えないと。




 きちんと休養を取るのも仕事の内だもんね。




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