第144話 祐樹カンパニー緊急会議(1)

「――という訳で、シエルから婚約を申し込まれた訳だが、みんな、どう思う?」




 家のリビング。




 俺は部下娘ちゃんたちの中から、主だった幹部級の子たちを集めて緊急会議を開いていた。




「現状、受けるしかないと思います。今の段階であの財閥を敵に回して大立ち回りするほどの資金力はうちにはありません。もし、断るなら、他の財閥の傘下に入るしかないと思いますが、今から外様として扱われるよりは、実績を残しているシエルさんのお兄さんの財閥におもねった方がまだマシかと」




 経理のトップで、金庫番の部下娘ちゃんが冷静に答えた。




「私も同意見です。ポジティブに考えれば、海外の既得権益が強い商圏にも食い込めるので、メリットも大きいと思います」




 企画畑をまとめている部下娘ちゃんも賛同の意を示す。




「うんうん。俺もそう思う。危惧される最悪の可能性としては、今やっている事業を乗っ取られて、おいしいところだけ持ってかれて、最終的にシエルとの婚約も破棄されるパターンかな」




「うちは非公開株式の形式をとっている会社が多いので、直接的な乗っ取りはないでしょう。人材交流などの名目で、息のかかった人材を送りこんでくるようなら要注意ですが」




 金庫番の部下娘ちゃんが資料をパラパラめくりながら呟いた。




「そうだね。注意しつつ、上手いこと付き合っていくしかない。10年以内に何とか追いつけるかな。もちろん、あの財閥を超えるのは不可能だけど、婚約をどうにかできる程度の交渉力をこちらがつけるという意味で」




「今の収益率と成長率から考えて、八割可能だと思います。私たちがしてみせます」




 企画畑の部下娘ちゃんがやる気満々で宣言した。




 職務熱心でありがたい限りだ。




「事務のみんなは賛成ということでよさそうだね。――アイはどう思う?」




 俺は、ソファーの背もたれに逆さにぶらさがり、パンツを丸出しにしているアイちゃん――軍事畑のトップに問う。




「とりあえず、いいワンちゃんのフリをしておけばぁ? いざとなったら、ウサちゃんでワープして、そのキザ太郎をぶっ殺せばいいだけでしょぉ?」




 アイちゃんが欠伸一つしてから、そうぶっちゃける。




 まあ、アイちゃんの言う通りなんだよね。極論、お兄様を暗殺してしまえば、また財閥の中で後継者争いが起きて、俺はしばらく時間を稼げる。




「そうだね。俺は行動の中からあらゆる選択肢を排除しないけど、なるべくなら暗殺は避けたいかな……。もちろん、向こうがアイや他のみんなに危険が及ぶような任務を押し付けてきた場合はやむを得ないし、躊躇はしないけどね」




 一般論としては、暗殺は戦術としては悪手だろう。指導者を暗殺しても地域に混乱が広がるだけで、社会全体としてはプラスにはならない。別に俺は善人ではないが、できることなら犠牲者は少ない方がいいと思ってるし、血生臭い手段は避けたいと考える程度の良心は持ち合わせている。




 それに、もし俺がお兄様の暗殺を決行し、そのことがバレたら、シエルちゃんとソフィアちゃんが不倶戴天の敵となってしまうからなあ。主人公的にはそれは望ましくない。




「……では、とりあえず、俺たちの統一意思としては、シエルの提案を受ける方向でいいかな。あとは、あまり気は進まないけど、母にも相談して、許可がもらわないといけないよね」




「それが良いかと思います。プロフェッサーの視点から見ると、マスターが彼の財閥の日本におけるパートナーのポジションを奪おうとしているようにも見えますから、きちんと説明はしておくべきかと」




 事務畑の部下娘ちゃんが頷く。




「うん。じゃあ、早速電話をしてみるよ。みんな、仕事中に呼び出して悪かったね」




 俺はそう言って会議を終わらせ、皆を仕事場に返してから、電話を取った。


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