第135話  青春の恥はかき捨て(2)

『未成年の主張のコーナーです!』




 ふと会話が途切れたしじま、バックグラウンドミュージック代わりにつけていたテレビに、自然とみんなの目が行く。




『僕には今、好きな人がいまーす!』




 屋上に立った学ラン姿の学生が、仰々しく叫んだ。




 ウアアアアアアアア、っと、校庭に居並ぶ他の学生の囃し立てる声。




『僕が好きなのはー、二年C組の――』




(『学校へ行こ〇』か……。そういや、こんなのもあったな)




 ジャニ〇ズの某グループがやっている、この時代の人気番組だ。




 俺も何回かは観たことがある気がするが、記憶は薄い。




 なぜって、そもそも当時、こんな真っ当なテレビ番組がやっている間、俺は暗い部屋でシコシコギャルゲーをやっていた訳で。




(っていうか、この番組、平日に流れてた気がするんだけど。俺の記憶違いか? いや。地方だからラグがあるのか)




 本来は土日にやっている番組ではなかったはずだが、地方のため、遅れて放送しているらしい。




「ふふっ、数年後のあの子たちに今のこのビデオを見せてあげたいわぁ」




 アイちゃんがクスクス笑って言う。




 アイちゃんは残酷な発想をするなあ。子どもなのに人生達観しすぎでしょ。




「エレガントさの欠片もない告白ですわね」




「『I love you』を『月が綺麗ですね』と訳した奥ゆかしい日本人はもういないんですね……」




 シエルちゃんと祈ちゃんが残念な感じの声で呟く。




「そうかしら? 確かにこんなテレビに映った状態で告白されるのは恥ずかしいけれど、好意を持ってもらえるのは素直に嬉しいんじゃないかしら」




 さすがみかちゃんはぐう聖だな。そんな優しい態度のせいで、中学・高校になったらダース単位で告白されることになると思うけど頑張れ。もちろん、身辺調査と監視はするが、いい男が見つかったら俺から乗り換えてくれて構わない。




「……男だったら、やる時はやらないとダメだよね」




 香くんが悩ましげな表情で言う。




「お兄ちゃん、翼お姉ちゃんに告白するのー?」




「な、なんでそういう話になるのさ」




 渚ちゃんの疑問に、香は顔を赤くする。




(おっ。我が親友は翼ちゃんにダイレクトアタックを決めるつもりか。まだ早いが、男まさりな俺っ娘キャラをお姫様扱いするのは効果大だからおすすめだぞ)




 翼ちゃんは、今はあんまり性差とか気にしてないけど、思春期になると、女なのに周りから女の子扱いしてもらえなくて悩んじゃう系女子だからね。




 大胆な告白は本来、主人公の特権だが、香氏に譲ってやろう。




 某ギャルゲーのエンディングのように、全校生徒が衆人環視している中で、校庭で熱いキスを交わして、伝説のカップルになってもええんやで。ほたるんるん。




「いいっすねー。青春っすねー。……。……。……。そうだ! いいこと思いついたっす!」




 テレビをぼーっと見ていた虎鉄ちゃんが、突如膝を打って立ち上がった。




「いいこと? なにー?」




 ぷひ子が首を傾げる。




「罰ゲームっすよ! 罰ゲーム! 次のゲームで最下位になった奴が、罰として『未成年の主張』をするっす! 胸に秘めた思いのたけをぶちまけるっす!」




 虎鉄ちゃんが熱のこもった口調で叫ぶ。




「えっと、それはなんでもいいのかな? 別に告白限定じゃないよね?」




 香が確認するように言った。




「なんでもいいっすよ。でも、置きにいったつまらない答えをしたら、つまらない奴だとお思われるだけっす」




 虎鉄ちゃんがシビアに言う。




「それはどうかしら。私はいいのだけれど、罰ゲームがあることを気にしていたら、楽しめない子もいるかもしれないわ」




 みかちゃんが将来の生徒会長っぷりを思わせるような、優等生口調で言う。




「いやいやいや、逆っすよ。やっぱり、勝負事は何か賭けるものがないと盛り上がらないじゃないっすか」




 虎鉄ちゃんがそう反論する。




「虎子いいこと言うわぁー。リスクのないゲームなんてゲームじゃないものぉ」




「おもしろそうー! 渚、それやりたーい」




「とりあえずやってみて、不都合があればやめればよろしいのではなくて?」




「お嬢様のおっしゃる通りです」




「私はどちらでも構いません」




「僕はあまり気が進まないけど、みんながそれでいいなら付き合うよ」




「うー、私、負けちゃったらどうしようー」




 皆が口々に呟く。




 どうやら、賛成派が優勢のようだ。




(罰ゲームイベントか……。俺としてはあまり波風を立てたくはないが、否定できる空気でもないな。主人公のキャラ的にも、ここで物怖じするタイプではない――と、なると)




「要はドベにならなきゃいいんだろ? 余裕じゃん」




 俺は無難に賛成側に回った。




「あら、今、最下位の方がおっしゃると説得力がありますわね」




 シエルちゃんが上品に笑って言った。




「おいおい。勝率を考慮してくれよ」




 俺は挑発的な笑みを返す。




「というか、さっきの大富豪の地位をそのまま引き継ぐの? 一回リセットするか、別のゲームにしないと、不公平だと思うんだけど」




 香が呟く。




「明確に一人の敗者を決めるのが目的ならば、シンプルにババ抜きで良いのでは?」




 祈ちゃんの提案に、皆が頷く。




「では、ジョーカーを一枚に減らしますね」




 ソフィアちゃんがトランプを手際よく仕訳始める。




 こうして、罰ゲームをかけたババ抜きが始まった。


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