第83話 血は水よりも濃い

 数週間後、自室で、俺は再びママンと電話で会話していた。




「……オニキスの妹という立場への執着を利用するとは、あなたも中々やりますね」




「母さんの血を引いてるからかな。俺、そこそこ演技もできるみたいだよ」




「――」




 ママンが、呼吸音と区別がつかないほどの小さな笑いを漏らす。




「それで、竜蛾組の現況は?」




「竜蛾組は壊滅状態です。沈む船から逃げ出すネズミが多く、跡目争いと、他の組の流入への対処にも手一杯で、当分、あなたにチャチャを入れる余裕などないでしょう。このまま他の暴力団に吸収されるかもしれませんね」




 ママンが他人事のように言う。




「俺が確保したシマの件は? 虎血組とわたりをつけてくれた? 俺では管理しきれないし、なるべくクリーンで合法にいきたいからさ」




 俺は、混乱に乗じて、アイちゃんたちを使って、示せる分の力は示しておいた。




 ヤクザになるつもりはないけど、交渉材料は多い方がいい。




虎血こけつ組はあなたの言った取り分でシマの管理を請け負うそうです。――彼らは、やたらとサードニクスと手合わせしたがってましたが」




 虎血組は、みかちゃんルートにおいて、主人公が所属することになる、竜蛾組と対立する任侠集団である。まあ、一応、弱きを助け強きをくじき、ヤクはご法度でカタギには手を出さないという、現実には存在しないファンタジー任侠道を極めし、筋の通ったヤクザさんたちである。




 いや、もうこの世界が俺にとって現実なので、実在することになるのか。




 ちなみにみかちゃんルートでハッピーエンドを迎えて、無事彼女を賽蛾組から奪還し、主人公が虎血組の組長になった暁には、妖艶で肝っ玉の据わった極妻みかちゃんを見られるぞ!




「手合わせかあ。アイに聞いてみるよ。――ああ、それから、竜蛾組に関しても、社会的に更生したい人には真っ当な職を与えるし、『そうじゃない』人も危険だけど稼げる仕事を用意するって周知してくれるかな」




 呪いの力に依らない、一般の兵士も必要だ。




 戦いは数である。




「引き抜きですか。……手配しましょう」




「楓は? 様子はどう?」」




「オニキスは、不気味なほどに落ち着いた様子で、訓練に励んでいます。一体、あなたは、オニキスに何を言ったんです?」




「それはもちろん、彼女の心を保つために必要なことを。――母さんも、研究がやりにくくなるからかもしれないけど、もうちょっと楓に優しく接してもいいと思うよ。心に秘めるんじゃなくて、態度で示さなきゃ分からないこともあるから」




「……あなたは、私とも、あの男とも違ったしなやかな強さを持っているようですね」




「二人のいい所だけ真似しているんだよ。母さんのストイックさと、父さんの優しさをね」




 俺はサラっとそう答えた。




 ママンもパパンも基本、会社員は務まらないような不器用なタイプだから、色々と損してる部分も多い。




 俺としては、本編では、ミケくんに殺される or 誰からも理解されずに精神的に生き地獄の二択しかないママンも、できれば救ってやりたいと思っている。




 我ながら、本当にできたいい息子だろ、俺。




 さあ、ママン、ここで泣いてしまってもええんやで? 




「……それでは」




 言葉少なに通話が切れる。




 ママンはこっそり、独りで泣くに違いない。あなたは、そういう女だもんね。






―――――――――――――――――――――

あとがきと作者からのお願い


 いつも拙作をお読みくださり、まことにありがとうございます。

 いきなりですが、現在、カクヨムコンテストというものが開催されております。

 拙作は現代ファンタジー部門に応募しており、現在4位です。

 私にとっては望外の非常にありがたい順位です。めちゃくちゃ嬉しいんです。本当に嬉しくてありがたいんですが、カクヨムさんの仕様により、トップページには各部門3位までしか表示されないことになっております。

 なんかこの順位、佳作だけど名作には絶対になれないくもソラっぽくて、すごくおいしい――とちょっぴり思ったりもするんですが、ここまできたらトップページに表示されたいと思うのが、作者としての率直な心情です。

 まあ、ぶっちゃけ、クレクレというやつなんで、もし拙作をお気に召して頂けた方がいらっしゃいましたら、フォローや下の☆等をポチっとするなどで応援頂けると作者のモチベーションがむちゃくちゃ上がります。すでにして頂いている方は、マジ感謝していることは言うまでもありません。

 そして、もし、三位以内に入れたら、作者のテンションが上がりまくった結果、な、な、なんと、本編ではサラっと流されてるモブ娘ちゃんたちの、秘蔵プロフィールを特別公開しちゃうかも!?(誰も興味ない)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る