第65話 武装メイドはギャルゲーの基本(1)

 俺がアイちゃんと、シエルの洋館に向かっていると、ポケットのガラケーが震えた。




「もしもし、ユウキですの?」




「ああ。シエルか。どうした」




 お嬢様ボイスに、俺はクールに返す。




「急で申し訳ないのですけれど、うちのメイド長が、せっかくだから、あなたのつわものの力を見たいと申しておりますの。『戦士は下手な挨拶をするより、拳で語り合う方が分かり合えるのです』などと。ワタクシは、客人に失礼ではないかと思うのですけれど」




 シエルが若干困惑したような口調で言った。




「えっと、それは模擬戦の申し込みと解釈していいのか?」




「ええ。設定としては、うちの屋敷に侵入して、ワタクシを暗殺するという体で攻めてきて欲しいそうですわ」




「わかった。俺は構わないが、今、アイに確認してみる」




 俺は一旦、ガラケーから顔を離し、アイに事情を説明する。




 まあ、聞くまでもなく答えはわかりきってるけど。




「――へえ。おもしろそうじゃなぃ。そうこなくっちゃぁ! 死なない程度にはボコボコにして構わないのよねぇ」




 予想通りの返答が来た。




「アイは乗り気だ」




 俺はシエルにそのままアイちゃんの意思を伝える。




「よかったですわ。では、メイド長にそのように伝えておきます。――それでは、また後ほど」




「ああ」




 俺は、ガラケーの通話を切った。




「ふふん。おもちゃが向こうの方からやってきてくれるなんてぇ、今日はついてるわぁ」




 アイちゃんが機嫌よさげに鼻歌を歌い出す。




「全力は出すなよ。出しても、『施設にいた』頃のアイの最高値までだ。敵は、今は味方だけど、仲間ではない」




 シエルとは現在、友好関係にあるが、将来は分からない。手の内を全て見せる訳にはいかない。シエル本人は信用できるが、裏にいるお兄様はヤベー奴なので。




「それで十分よぉー。相手のとこにいる能力者は、チュウ子くらいでしょぉー? パンピー相手に負けるはずないわぁー」




 アイちゃんが調子乗りまくってる。




 これ負けイベだな。




 俺はそう確信しながらも口には出すことなく、足早に洋館へと向かった。


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