第29話 肝試しイベントのオチは限られている

 時間通りに自販機の元へ集合した俺たちは、早速洋館目指して出発した。




「ったく。こんなにゾロゾロ大勢で行ったんじゃ、肝試しにならねーだろうが。一人ずつか、せめてペアだろ?」




 懐中電灯を手に先陣を切る翼が、不満げに呟く。




「そんなことしてたら夜が明けちゃうだろ。屋敷は広いし、中の探索する時に分担するくらいで十分だ」




 俺はもうビビって震えてるぷひ子と渚を一瞥していう。




 一応、主人公ムーブ的には、お化けを怖がっているぷひ子と渚に配慮した形である。




「僕も祐樹に賛成だよ。一応、事故があったばかりだし、妹と離れるのは……」




 香が控えめに賛同の意を表する。いくら翼に好意を抱いているとはいえ、肉親の情をおろそかにできるほど、香は冷たい人間ではない。




 好感度調整的には、ぷひ子 and 渚↑↑、みかちゃん↑(ゆうくんってやっぱり優しいよね)、香↑、翼↓って感じかな。




 翼は根にもたない性格なので、多少好感度が下がったところで問題ない。適当に駄菓子でも食わせとけば勝手に回復する。それに、香が翼を好きなら、あんまり翼の好感度を上げ過ぎると香の嫉妬フラグも立ちかねないしな。実際、原作ではぷひ子を巡って、香と主人公は一悶着あるし。




 なお、本編の肝試しイベントにおいては、選択肢が出て、じゃんけんでペアを決める定番な展開がある。




 俺の望むルートに行くには、香とペアを組むことが望ましいが、残念だが、じゃんけんの結果はコントロールできない。本編での肝試し参加者は、俺・香・ぷひ子・みかちゃんの四人なので、参加者が増えた現在において、ゲーム本編と同じ手を出しても、同じ結果が保証されているとは考えにくいからだ。変に特定のヒロインと二人っきりになってフラグが立つのは困る。くじ引き形式にして、イカサマを仕込むということもできなくはなかったが、万が一バレた時の好感度低下リスクを考えると、そこまでする必要はないな、という結論に達した訳だ。




「私としては、これでも十分、ドキドキしてるわ。あーあ、私、生活態度で花丸以外もらったことないのに、ゆうくんのせいで悪い子になっちゃったなあ。責任とってくれる?」




 両手をそれぞれ渚とぷひ子の手につないだみかちゃんが、からかうように言う。




 さりげなくかがんで胸元をチラリズムさせるのも忘れない。このスケベめ。




「そんなこと言って、みか姉も実はノリノリのくせに」




「ふふふ、バレたか」




 みかちゃんがテヘペロして笑う。




「大丈夫です。文学者たちの幼少の頃の行いと比べれば、大した非行ではありませんよ。聖人で通っている宮沢賢治ですら、旅館の一階を水浸しにする悪戯をしていたくらいですし」




 祈が涼しい顔で言った。妙な所で肝が据わっている女である。




 そんなこんなで、一時間ちょいほど歩くと、例の洋館が見えてきた。




 石造りの年代物で、壁には枯れた蔦が絡まり、『いかにも』な感じである。




 敷地もかなり広い。ちょっとした籠城戦ができそうな規模だ。っていうか、本編ではするんだけどね。




「じゃ、行くぞ」




「ああ」




「うんしょっと。重いね」




 錆びた鉄格子の門扉を押し開けて、俺たちは洋館の敷地に足を踏み入れた。




「ぷひゅー。変な虫さんが、なめくじさんが、イヤー!」




「ぷひちゃん。虫除けスプレーもっとかけてあげるから落ち着いて」




「ううー。お化け怖い……」




「鎌でも持ってくるんだったな。草がウゼぇ」




「ま、これも冒険ってことで」




 俺たちは、伸び放題になった夏草を掻き分け、玄関口へと辿り着く。




「で、どうする? 正面突破するか?」




 俺は戯れに双頭の蛇の形をしたドアノッカーを使いながら、みんなの顔を見渡す。




「ドア、開きますかね。いくら不用心な田舎とはいえ、常識的に考えて、施錠されていると思いますが」




「ま、その時は窓でも割って入ればいいだろ――おっ、開きそうだぞ。でも、固ぇな。お前ら、力を貸せ!」




 扉を肩で押し、体重をかけながら翼が呟く。それに倣い、俺たちもドアに自重を預けた。




 ギギギギギ、と、鉄扉が不気味な音を立てて開いていく。




「おっしゃあ! 開いた! テンション上がってきたぜ! それじゃあ、各自探検な! 一番スゲエお宝を見つけた奴の勝ちだぜ!」




 翼が我先に洋館の中へ突っ込んで行く。




「ま、待って、僕も行くよ!」




 香がその後を追った。




 うーん。オチを知ってるとあんまり行きたくないけどなあ。




 主人公のキャラ的に行かない訳にはいかないんだよね。




「翼たちは北か! じゃあ、俺は西を攻めるぜ!」




 俺は威勢よくそう叫んで館へと突っ込む。




「うおっ」




「えっ」




「なっ」




 突如、浮遊感が身体を包む。




 こうして、俺たち三馬鹿は、仲良く逆さ吊りになったとさ。




「お兄ちゃん!」




「ゆーくん!」




「二人共、行っちゃだめ!」




 みかちゃんが二人の手を引いたのだろう。多分。背中越しで見えないけど。




「……太宰なら速攻、友達を置いて逃げ出しそうなシチュエーションですね」




 祈がぼそりと呟いた。




「ふう。全く騒々しい。――あなた方、ワタクシの住まいに土足で踏み入るなんて、一体、どういう了見ですの。日本人は礼儀正しい方々だと聞いていたんですけれど、どうやらその情報は間違いだったようですわね」




 奥の中央の階段を下り、ランプを片手に威風堂々現れたのは、お手本のような金髪ドリルだった。フリフリのついたそれっぽいドレスを着ている。




 年齢としては、俺と同年代の設定だ。




「お嬢様。いかがいたしましょう。『処理』致しますか?」




 金髪ドリルの横に控えた、銀髪のメイドが無機質な声で呟いた。




 もちろん、メイド喫茶のエセメイドのようなミニスカではなく、露出の少ないきっちりかっちりなロングスカートタイプ。腰にはロングソードを佩いている。古き良き武装メイドスタイルだ。




 ちなみに、彼女は俺の二個上の設定だ。




(シエルお嬢様とメイドさんキタコレ)




 俺は血が頭に昇っていくのを感じながら、作中屈指の人気キャラたちを見つめた。


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