第26話 後輩キャラは助かりました
結局、幼女ちゃんは無事怪我もなく救出された。
しばらくは恐怖で泣きじゃくっていたが、今は俺たちの持ってきたパックのジュースをチューチュー吸ってすっかり落ち着きを取り戻している。
「ありがとう。君たちは、妹の命の恩人だよ!」
キャンプに戻った後、将来の親友君こと、立花香(たちばなかおる)は、俺と翼の手を握って、何度も何度も礼を繰り返した。
「お兄ちゃん。お姉ちゃん。ありがとー」
将来の後輩キャラこと、立花渚(たちばななぎさ)ちゃんは、将来の小悪魔キャラの一端を覗かせる人懐っこさで、俺や翼に抱き着いてくる。
「とにかく、助かって良かった」
俺は微笑む。
「だな。魚は釣れなかったけど、予想外のでけーの釣れておもろかったぜ。あー、腹減った。飯、食おうぜ飯。香と渚も来いよ」
翼も白い歯をこぼして笑うと、ざっくばらんに誘う。
「いいのかい?」
「ああ。飯はみんなで食べた方が美味いしな」
「嬉しいよ! 僕も妹も、東京から越してきたばかりで知り合いがいなくて……。あっ、僕の父と母が、是非お礼をしたいって言ってるんだけど、何か欲しいものある?」
「マジか? じゃあ、近所の駄菓子屋で食い放題とかやってもいいか!?」
翼が子供らしく、無邪気な欲望に瞳を輝かせる。
「もちろん!」
「おお、やったぜ。香、都会から来たってことは、ベーゴマとかやったことないだろ。今度教えてやるよ!」
翼が香に肩組みして言う。
「ベーゴマ? ベーソードじゃなくて?」
シティボーイな香がナチュラルに首を傾げる。
うち田舎に住んでるのん。
「あっ、駄菓子屋さん行くの! 私も行くー! 納豆もんじゃ作るー!」
「駄菓子屋ですか。実は、私、行ったことないんですよね」
祈ちゃんが羨ましそうに言った。
「そうなの?」
「はい。店番のおばあさんの鋭い眼光が怖くて、いつも素通りで」
「じゃあ、今度みんなで行こうか」
「はい! 正直、添加物が多そうなので、あまり駄菓子自体は食べたくないんですけど、たまに小説に出てくるから、気にはなってたんですよね。祐樹くん。芥川のトロッコに出てくる駄菓子、ありますかね」
「どうだろう。っていうか、あれって明確に何のお菓子か描写はなかったよね」
「はい。石油の臭いが染みついたという描写があることから、かりんとうではないかと言われていますが、確実ではありません」
「みんなー、おしゃべりもいいけど、早く食べないとお肉が焦げちゃうわよー」
グダグダとしている俺たちを、世話焼きのみかちゃんが急かす。
(うんうん。いい感じに人間関係が回り始めたね。これでこそ、俺もフラグのぶち壊し甲斐があるってものだ)
俺は和気あいあいとした雰囲気の中、満足感に浸っていた。
なお、本編では、もちろん、今回のイベントに翼はいない。香も救助は間に合わず、主人公のみがペットボトルだけを抱えて飛び込み、渚を助けようとする。しかし、所詮は無知な子ども故の蛮勇。主人公は力及ばず、一緒に流される。結果、渚と共倒れとなり、水を飲み、意識を失い、万事休すかと思われたが、流木に引っかかっていた所を、ぷひ子が呼んだ救助の大人に見つかって、奇跡的に助かる。――しかし、それはもちろん奇跡などではなく、死にかけの状態の渚が、川に潜む古の妖魔と契約したことによって得た、仮初の生に過ぎなかった――という真実が、渚ちゃんルートで明かされる。
彼女のルートは、自分を慕う元気で生意気な後輩キャラの美少女がだんだん異形になって心身ともにおかしくなっていく系で、割と伝奇ホラーの王道な感じのストーリーである。
でも、全年齢対象の健全なギャルゲーで、蛇化した女の子に丸呑みされるという特殊性癖を植え付けようとしてくるのは、おじさん、やっぱりどうかと思うの。
(まあ、そのフラグもバキバキに折ったけどね)
まず、そもそも臨死体験がないので、当然呪いは発動しない。
加えて、俺と一緒に翼が渚を助けることで、彼女の好感度が分散し、俺とのフラグが立ちにくくなる。
(百合ルートに入ってくれてもいいんですよ。後輩ちゃん)
無論、親友くんにとって、俺が彼の妹の命の恩人であることには変わりはないので、本編同様、いい友達にはなれるだろう。
(後は、このイケメンを使って、上手く何人かのヒロインの
親友キャラには、大きく分けてモテないお調子者系と、モテる中性的なイケメン系の二種類がいるが、こいつは後者である。存分に利用したいところだ。
まあ、欲張り過ぎて逆に変な地雷を踏む可能性もあるから無理はしないけどね。誘導はするけど。
特に設定として、ぷひ子が好き(この世界ではこれからそうなる予定)というのがあるので、できれば厄介なフラグのデパートであるぷひ子を押し付けられればベストだ。
これが寝取らせってやつかも?
(ともかく、これで大体、少年時代の最重要級の人物のフラグは上手い事回収したかな?)
さりげなく焼き過ぎて焦げかけた肉を率先して食べて、いい所をヒロインたちに譲る主人公ムーブを見せながら、ひそやかな安堵を覚える俺だった。
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