第26話 旅の手前
「
「……そんな、ポンポン言わなくても」
「《
作戦終了後、おっとり刀で引き返してきたセレスティーナに救助されてからというものシズクの顔を見る度にセレスティーナはこんな調子だった。
《
が、危うくコアユニットごと
「まったく……まあ、死に戻りを回避しようとしたことは褒めてやってもいいが」
「だろ?」
「調子に乗るな。
「それはセレスも同じだろ? 融合してる時と今とかなり違うんだぞ。セレスは自分じゃわからないかもしれないけど」
むう、と口を
味はリンゴに似ているが、食感はマンゴーに近い。ねっとりした甘みはコンポートのようでシズクは
「ほら。それで
「ん? ああ。何日かタンクに入ってたから。もうすっかり
「ま、それぐらいは仕方ないだろう。名誉の負傷だ」
「……まっさらにした方が」
言い終える前にスパンと頭をはたかれる。
「だから、その発想を辞めろ。言っておくが、今後は……簡単に死に戻り出来るような立場では無くなるのだからな」
「……やっぱ、騎士団は?」
「除隊だ。巻き込んでしまってすまないとは思うが……」
「いや、俺は別にいいけど。どこで戦うことになっても。それより、セレスは良かったのか?」
「後悔はない、と言えば
シズクに渡した皿から一切れの果物をつまんで口に放り込んだセレスティーナは少し
「それでも、やらなかった時はもっと後悔しただろう。だから、私はこれでいい」
「そっか」
「ああ」
シズクも一切れを口に入れる。甘いが酸っぱい。この感覚がちょうど良い。
「作戦が終わったよ……っと、邪魔したかな?」
2人して無言でむぐむぐとしていると、出し抜けに病室の扉が開かれた。ファイルを片手にヨシュアといつものフライトジャケット姿のカルディナが並んで部屋を
「出直そっか?」
「だな。馬に蹴られるのはアタシもゴメンだ」
どう考えてもワザとやっているに違いないというタイミングと声にシズクがいい加減にゲンナリした顔でため息をつく。
「だから」
「そんなじゃない、だろ? もう聞き飽きたよ。それで隊長さん?」
「ああ、構わない。シズクをからかうのも飽きたところだ。それで?」
こちらは2人の
「ステージ3が無事に完了したよ。被害は……まあ、それなりだけどね。9割以上が地球人の部隊だから実質的な人的被害はほぼゼロだね。この後は地球人とトゥーンの合同部隊が駐屯して、周辺の世界樹を制圧する予定だってさ」
「そうか……ん?」
「ああ。奪還した世界樹の半分は地球側で管理することになるみたいだね」
ヨシュアの言葉はシズクにとってはかなり奇妙なものに聞こえた。
「世界樹を? そんなもの管理したって……手間が増えるだけなんじゃ?」
「まあ、その辺のことは色々あるみたいだけどね。気になるなら、アリーと2人でもう少し突いてみようか?」
「いや。いいよ。俺たちに関わることなら、そのうちわかると思うし」
「そうかい? ま、何か面白いことが出てきたら伝えるよ」
ヨシュアの言葉を聞き流していたセレスティーナの手がピタリと静止する。そのページを一緒に
「……とうとう、出てしまったか」
今や古巣となってしまった実験騎士団はその性格上、ステージ3では中核的な任務を担っていた。結果として第3小隊が全滅という結果が記されている。
数少ないトゥーン人の騎士の戦死者の名前がそこに記されていた。
「トールのやつ……
「そうだな。今までが
実際問題、幼樹の村にせよ今回の防衛作戦にせよ、セレスティーナ自身が戦死していても少しもおかしくは無い状況だった。
そのことを考えれば意外ではないが、やはりそれでも衝撃は大きい。
シズクは頭のどこかで、自分たちとセレスティーナがやはり同じなのでは無いか……? という気持ちが巣くっていたことに気がつかされていた。
「ま、運だな。気にすんなって。ヤバイと言やアタシたちの方がよっぽどやべえ橋を渡ってんだ。あんだけ石橋
「想定外の群れが来なきゃパーフェクトゲームだったんだけどね」
「予定通りに行く
先の
「また、やりたいね。今度はあんな半端な状態じゃなくよ」
「カルディナは本当に戦いが好きなんだな」
「別に
いつものようにホイホイっとポケットから出てくる
「いつもカルディナからは
「気にすんな。いずれ返して
「シズクの
「そっか。ま、セレスもシズクもいいリーダーだったぜ。また、どっかで
「ああ。その時は遠慮無く世話になる――シズク、それでいいか?」
「ん」
「まあ、2人にはチャンネル開けておくよ。というか、なんか妙にこの前の会議からこっちあの怖いお姉さんから粉かけられるんだよなあ……」
「この部隊がそれだけ気に入られてるということだ。おそらく
「別にボクが全部やったわけじゃないんだけどね……」
「しばらくはドサ周りか。シズク、
言いたいことは言ってしまったのか、それともシズクとセレスティーナの顔を見て満足したのか。あるいはあれが別れの挨拶だったのか。
2人はそれぞれ言いたいことだけを言ってしまうと、あっさりと病室から出て行った。
「それで、俺たちはどうなるんだっけ?」
「とりあえずは聖樹騎士団へ出頭だな。騎士団の本部のある聖樹の都までは樹門を経由しても結構な長旅だ。その後は……おそらく各地の世界樹の調査を命じられるのではないかと私は想像している」
「世界樹の調査?」
「
「なるほどね」
「だから、お前と私というわけだ。さ。今日はもう寝ろ。明日は準備。明後日にはここを
「わかった」
「ああ、それからな……」
というと、セレスティーナはシズクの食べかけの果物が乗っている皿をひょいと取り上げた。
「寝る前に
「あ」
そして、そのまま食べさしの一切れを選んで口の中に放り込む。
「良い夢を」
「……楽しみに残してたのに」
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