第52話ゴンザレス領地(?)に帰る①

 どーもー、ゴンザレスでーす。


 もうアレスという名前は、カストロ公爵なるお方の名前なのでゴンザレス知らなーい。


 豪華な馬車に揺られ、ワイングラスを揺らしながら窓からの景色を眺める。


「ふっ、思えば遠くに来たものだ……」


「ほんと、あんたちょっとヤバいことしすぎじゃない?

 この状態であんたがただの詐欺師とか言って、誰が信じるのよ?

 カストロ公爵アレス」


 流れでここまで一緒に旅して来たエルフ女もワインをグイッとあおり、つまみのチーズをポイっと口に入れる。


 美味いわねー、と実に呑気だ。

 俺も同じようにチーズをつまみ、ワインをグビッと。

 これかなり美味いよなぁ。


 俺が入る酒場では置いてあるかどうかも分からんレベルだ。


 なんで、こんなお貴族様が乗るような馬車で移送されて、上等なワインやらチーズやらもてなされているのか。


 お偉方の考えることはサッパリです。


 100歩譲って目の前のエルフ女をもてなすと言うならなら分かる。


 世間知らずだが剣聖の担い手とやらは、聞く限りは本当の話みたいだし、一度魔獣に遭遇した時は一閃して見せた。


 その後は素材を売って一晩中酒盛りして、二人して宿でグデングデンになってたのは楽しい思い出だ。


 気の置けない関係という奴だ。


 それはともかくヤバいことをしたというより、巻き込まれてるが正しいんだけどなぁ。


 ちょっと遠い目。


「いざとなったら逃げるしか無いわね。ま、様子見じゃない?」


 気楽に言ってくれるなぁと思うが、現状それしかない。

 実際、今は逃げ出せそうだが至れり尽くせりの旅で不満は一切ない。


 ただ移送されているところが、あのNo.8の領地ということだけが。


「アレス? あんたほんとは、やんごとなき血筋とかあるんじゃないの?」


「それだったら楽だったんだけどな。生粋のスラム生まれスラム育ちのやんごとある血筋だよ」


 ふーん、とエルフ女はまたワインをグビッと。

「また飲み過ぎで大変なことになるぞ?

 一昨日もそれで、2日ほど立ち往生させたところだろ?」


「あん時はあんたも一緒に飲み過ぎでダウンしてたじゃない。

 むしろお付きの人たち、あんたを気にして馬車止めてたじゃないのよ」


「……仕方ねぇだろ?

 もうじき例のカストロ公爵領とやらに到着だ。

 これが最期の酒になるかもしれねぇんだからな。

 飲み納めだ」

 悲痛っぽく言ってるが、そうなったら意地でも逃げ切って見せる。


 俺は、俺は何がなんでも生きて見せる!!!


「相変わらずあんた、目だけは死なないわね。

 ま、いざとなったら私も付き合って逃げてあげるから」


 おう! 頼むぞ!

 ピンチになったら置いて逃げるし。


 へいへい、と俺は手をフリフリ。


「ま、そん時は頼んだ!」

「任せなさい」


 エルフ女いい奴だな。

 騙されるぞ? 俺に。


 そうして、俺たちはまたワインを傾ける。


 カストロ公爵領はすぐそこにある。

 さて、どんな恐ろしい目に遭うか……。







「「「お帰りなさいませ、公爵閣下」」」


 領地に入った瞬間に馬車が止められ、仕方なく降りると、人々が綺麗に整列してお出迎え。


 居並ぶ人々に、俺は引きった顔をしてしまう。


 隣で同じように、顔を引き攣らせているエルフ女にこそっと話しかける。


(なあ、帰って良い?)


(何処へよ? あんた根なし草でしょ?

 歓待してくれてるみたいだから大人しく受けなさいよ。

 第一、これあんたの出迎えでしょ!)


(でも、これどう見ても異常事態だよ?

 なんで、ただの詐欺師にこんな出迎えがあるんだよ!)


(知らないわよ! だから、あんたが何かやったんでしょ!?)


 俺たちがいつまでも馬車の前から動こうとしないので焦れたのか。

 以前、奴隷から適当に選んで内政官にした男が出てきた。


 こいつも元々奴隷だったんだよなぁ。

 今では俺も奴隷の大変さが分かったよ。

 あれはダメだ。


 気力も体力もやる気も無くなる。

 特に帝国の奴隷はダメだった。


 海賊奴隷の方が立場が良かったぐらい。

 犯罪者どもの方が生活レベルが高いってどうよ?


 まあ、すぐに討伐されて大半お陀仏だけど。

 悪い事は出来ませんねぇ。


 あ、俺詐欺師、健在だけど。


 落ち着いてよく見れば見知った顔がチラホラ。


 帝国の奴隷にされてた時に出会ったヤツらもチラホラ。

 おっと、この話は秘密だ。

 俺が逃亡奴隷であることがバレる。


 なあ? 元軍人のオッサン、あんた帝国の奴隷だろ? なんでここに居るの?


 あ、可愛い子!

 綺麗なドレス着て小柄。

 どっかで見たことあるような気はするが、流石にあんな可愛い子を忘れるわけがないか。

 でも、なんで一緒に並んでるの?


 キョロキョロと周りを見回す。

(ちょっと! 何キョロキョロしてるのよ? 早く何か言いなさいよ?)


(いや、祭りでも行われるのかな、と。それか俺たちの後ろから、誰か偉いさんが来ているのかな、と)


 一縷いちるの望みを賭けて、2人で後ろを振り返る。


 あるのは今、俺たちが乗って来た馬車のみ。


「お館様如何なされました?」

 内政官男が俺の方に向けて声をかけて来る。


 俺は恐る恐る自分を指差す。


 頷かれた。


 こうして俺ゴンザレス、カストロ公爵領に到着しました。


 ハハハ……どうしてこうなった?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る