2つめ:さめざめ

 雨は、天使だと思う。穏やかと思えば荒々しくて、気まぐれで。でも、それでいて美しい存在だと。


 あるとき、伝えてみた。

「君は天使みたいだね」

 雨は一瞬動きを止めて、それから盛大に笑った。

「オレが天使なら、みんな天使だろうよ」


 この世全てのものをさげすむように、みずからをあざける。そんな雨を見ていると悲しくなるが、雨にはどうすることもできない。


 かれの名は『宿雨しゅくう』。梅雨つゆよりは短いけれど、同じようにうとまれ、長く降り続く者。


「ボクにとっては、天使なんだよ」

 ぼくは、穏やかな雨がうらやましい。



   *


 雨は、悪魔だと思う。大人しそうに見えて、加減を知らない赤子のように振るまうからだ。これでは、せっかくの美しさも台無しというもの。


 あるとき、からかってみた。

「お前はほんと悪魔だな」

 雨は一瞬動きを止めて、それから優しく微笑んだ。

「それがボク、だからね」


 付き合いが浅ければ、強がりだと疑いもしなかっただろうみ。心で泣く奴だと雨は知っているのに、りもせずまたやってしまったらしい。


 かれの名は『村雨むらさめ』。天の怒りかと驚き見まごう、短時間に集中して降る、激しき者。


「どう見えるかより、お前が何を思うかだろ?」

 おれは、ぼろぼろ泣く雨でいてほしい。



===

雨雨さめざめ

2019.06.24 作


*さめざめ、は造語読み。それぞれ終盤で「雨」に当てたルビは男女反転してOK。一応、男同士のイメージで書いてます。グッドオーメンズ好き。


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