雨にまつわる小話3つ

あずま八重

1つめ:あまのじゃく

わたしは、雨が好き。

天から地にかえっていくのをながめるのが、好き。


空も山もキレイになるし、ときどき虹だって見せてくれる。

くもりが続くと、そりゃあ体も気も重くなるけれど、奏でられるリズムを聞いているとすごく心が落ち着くの。

それに何より、母さまたちが喜んでくれるから好き。


この母さまの胸はわたしを抱き、あの母さまの手は雨風あめかぜを払う。

わたしは、そんな母さま みんなが大好きだった。



 だから、母さまたちを苦しめた雨は嫌い。

 いくつも手を折り、足元をすくって横倒しにした雨は。



わたしは天に飛んだ。

小さな体を小さな翼で、高く高く運び上げる。

力の限り、文句を言った。

そのうち世界はグニャリと回って、すぐにわたしも雨になった。


天は、何も言わない。

スズメなんて、気にとめたりしない。


バチャリと、大きな水たまりに落ちた。

今は心も体も痛いけど、ケガはない。

母さまたちを苦しめた雨が、わたしを助けたらしい。


好きだけど嫌い。嫌いだけど好き。

もう、それでいいや。


身をふるわせて雫を払い、もう一度飛び上がる。

母さまのところへ帰ろう。

そしてまた、雨を楽しもう。



===

あまじゃく

2019.06.24 作


* 正しくは「天邪鬼:あまのじゃく」。雨降らす天に想いを寄せつつ、嫌ってもいる小スズメ。そんなに高くは飛べない。


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