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 レシピは全て横書きである。まず一番目に料理のタイトル――【人肉炒飯】と銘打たれ、その下には料理の写真らしきものが載せられている。さらにその下には材料――【白米……適量】【ねぎ……適量】【生卵……1個】と順番に中央揃えで並び立てられている。だからこそ、やたら左右に余白が目立つように思えるのかもしれない。その材料で一際異色さを放つのは、言うまでもなく材料の最後に記されている【人肉……2本】の文字。


 それに続いて三段に分けられて書かれたコメントらしきもの。これがどうにも気味が悪い。文章そのものの内容が不気味なのと、人の肉を使った料理が、さも当たり前であるかのように書かれているのも気持ち悪い。


 ――【人肉とパラパラのご飯が見事にマッチする至高の一品】。


 ここで文字列は改行され、中央揃えで次の文字列へと移る。


 ――【人肉を口に含むとじわりと肉汁が出てご飯に染み込む】。


 正直なところ、頭がおかしいなんてレベルじゃなかった。人が人を喰らうという時点で倫理的なタブーを犯してしまっているわけだが、コメントからも、まともな神経をしている人間の仕業ではないことが充分に伺える。ここでさらに文字列は改行され、同じように中央揃えで三段目に続く。


 ――【ご家庭でも簡単に作れる一品ぜひお試しあれ】。


 家庭で作るにも材料の調達ができないし、仮にそれができても誰が作るものか――。思わず心の中で悪態をつく倉科。文章そのものはもちろん不気味だが、なんだか気持ちの悪さを感じる要因は、どうやら他のところにあるようだ。この文章――句読点が使用されていないから、なんだか気持ちの悪さを感じるのかもしれない。


 もう一方のレシピにも、同じような気味の悪さが漂っている。もはや【人肉野菜炒め】なんて名前だけで辟易へきえきとしてしまう。材料は【もやし……1袋半】【キャベツ……2分の1】【人参……1本】とごく当たり前の材料が並び、またしても最後の最後で【人肉……8本】となっている。


 コメントは以下のようになっていた。


 ――【お手軽料理の定番】。


 ――【しんなりとしていて新鮮さの残る野菜に中がレアの人肉が見事にマッチ】。


 ――【栄養満点でおいしい一品はお子様にもおすすめですよ】。


「それで坂田……。このレシピのどこに犯人の几帳面さが出ているっていうんだ?」


 またしても胃から込み上げてきたものを押し戻しつつ、倉科は率直に坂田へと問うた。


「――そこに記されている料理の名前、材料、コメント全てにおいて、使用されている文字数が全部偶数になるようになってんだよ」


 坂田が何を言いたいのか分からない。尾崎も坂田の言葉の意味がピンとこないようで、倉科のほうに意見を求めるかのごとく、視線を向けてくる。それを見て溜め息をつくのは坂田だ。


「こんなことも分からないとか、マジで警察の連中は終わってるな。頭がイカれた奴らからすれば、やりたい放題の殺し放題じゃねぇか――。これだから馬鹿の相手は疲れる」


 相も変わらずダイレクトに人を馬鹿にしてくる奴である。しかし、ここで文句のひとつでも言って、機嫌を損ねられるほうが面倒だ。ここは下手したてに出るべきだろう。


「坂田、俺達にも分かるように、もう少しレベルを下げて話をしてくれないか?」


 坂田と付き合っていると、どうにも自尊心というものが、ないがしろにされがちだ。しかしながら、これが0.5係の役割。事件解決のために坂田と事件との橋渡しをしつつ、坂田の機嫌も取らねばならない。まったくもってフラストレーションが溜まる職場だ。


「いいか? まず料理の名前――【人肉炒飯】。使われている文字数は4文字。続いて、材料と分量を記したもの。上から順に【白米……適量】【ねぎ……適量】【生卵……1個】【人肉……2本】という記述。記号である【…】三点リーダーを1文字としてカウントすると全部6文字だ」


 人肉炒飯で4文字。坂田のいう記号の三点リーダーは【…】で1文字とカウントするようで、すなわちどの記述にも2文字ずつ入っている。よって、材料の記述はどれも6文字で形成されている。左右に余白があるように思えたのは、どれもが中央揃えで、なおかつ文字数が合わされていたからなのかもしれない。


「そして、犯人のコメントらしきもの。これらも全て文字数が偶数だ。まず【人肉とパラパラのご飯が見事にマッチする至高の一品】という一行目のコメント。全部で24文字。二行目の【人肉を口に含むとじわりと肉汁が出てご飯に染み込む】も全部で24文字だ。そして三行目――【ご家庭でも簡単に作れる一品ぜひお試しあれ】は20文字。恐らく、句読点を一切使っていないのは、使ってしまうと文字数が偶数ではなく、奇数になってしまうことを嫌ってのことだと思われる」


 句読点が使われていないことは、倉科も引っかかりを覚えていた。しかし、まさか文字数を偶数に合わせるために、句読点が使用されていないなどとは、考えすらもいたらなかった。


「続いて、もう一方の【人肉野菜炒め】のレシピを見てみろ。こいつもまた、どの行の文字列も、全部偶数で統一されている」


 言われてもう一方のレシピへと目を通す。坂田が紙飛行機にしてしまったせいで、折れ目がやや鬱陶うっとうしく思えてしまう。


 料理の名前は【人肉野菜炒め】で6文字――と偶数である。モノクロの写真を通り過ぎて、その下に羅列されている材料に目を通す。こちらも一枚目と同様、全ての文字列が中央揃えで、どうにも左右の余白が気になってしまう。


 【もやし……1袋半】は記号を含めて8文字。続いて【キャベツ……2分の1】は10文字。もちろん【人参……1本】も6文字と偶数だ。坂田の言う通り、どういうわけだか全ての文字列が偶数になるように整えられているように思える。当たり前ながら【人肉……8本】という記述も6文字で偶数である。


 そのまま犯人のコメントへと視線を移動させる。【お手軽料理の定番】――8文字。続いて長文となる二行目――【しんなりとしていて新鮮さの残る野菜に中がレアの人肉が見事にマッチ】は、頭の中で指を折りながら数えてみると32文字。文章がやや読みにくいのは句読点が排除されてしまっているからであろう。最後の行になる【栄養満点でおいしい一品はお子様にもおすすめですよ】は24文字。誰が人肉の入った野菜炒めを子どもに食わせるか――なんて嫌悪感を抱きながらも、やはり全ての文字列が偶数であることを確認した。


「確かに、坂田の言う通り全部偶数で書かれているな――。だが、全ての文字が偶数だからといって、どうして犯人が几帳面だと言える? 意図的である可能性は高いが、もしかしたらただの偶然なのかもしれん」


 わざと句読点を排除しているところを見る限り、どう見ても偶然ではなく意図的に文字が偶数になるように調整されているようだ。しかしながら、これと犯人が几帳面であるという坂田の推測とが、うまい具合に絡み合ってくれない。几帳面という言葉にピンとこないのだ。


「偶然じゃなくて必然なんだよ。それが顕著に出ているのが材料の記述だ。最初の犠牲者のレシピ――【人肉炒飯】のほうには【適量】って文字が多用されているが、第二の犠牲者のレシピである【人肉野菜炒め】では、妙に具体的な分量が書かれているだろ? 【もやし……1袋半】とか【キャベツ……2分の1】だとかよぉ。これこそ、犯人が几帳面である証拠だ。仮に偶数に合わせるだけなら【キャベツ……適量】でも構わなかったはずだ。しかし、犯人には【キャベツ……2分の1】と表記しなければならない理由があった。それはなにか――」

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