葬送 ⑤’

 その日の食卓は、重い空気が流れていた。恐らく、村のどこの食卓でだって、同じような沈黙が降りているのだと僕は思う。

 こんな小さな村では、一人ひとりの存在がとても大きなものなのだ。

 だから、その一人が欠けたなら……それはとても悲しいことで。

 テレビでは、車のリコール問題のニュースなどが読み上げられている。

 家族はそれに目を向けてはいるものの、ちゃんと聞いているかどうかは分からなかった。

 いや……聞こえてなどいないだろう。


「……ジロウくんは、ちゃんと空に飛んでいけたのかな」


 僕がそう呟くと、


「……古い言い伝えか。鳥になるという表現がどうかはともかく……明日には、ゲンキくんが全て終わらせてくれるはずだ」

「まあ、心配しなくても大丈夫だよ、ヒカル。ジロウくんが飛んでいけないはずがないさ」


 そんな風に、僕を慰めるような言葉をかけてくれる。


「……うん。ありがとう、お祖父様、お父さん」


 僕は力なく笑って、お祖父様と父さんに感謝を告げた。





 お風呂上がり、僕はそのままベッドに倒れこむ。

 今日はあまりにも色々なことがありすぎて、もう何も考えずに眠り込んでしまいたかった。

 けれども、暗い部屋で目を閉じれば、浮んでくるのは黒い枠に収まったジロウくんの笑顔。

 そして、その下に置かれた棺。空っぽの棺。

 どうして……棺に入るべき遺体が、不在だったというのか。

 ジロウくんの遺体は、既にどこかへ運ばれたのだろうか。だが、どうして葬儀よりも早く運ばなければならなかったのだろうか。そこに、何か理由があるのだろうか……。それにお祖父様の、明日には全て終わらせてくれるという言い方も、少し気になる。

 それに……もう一つ、後から考えて気にかかったことがあった。

 父さんの言ったこと。ジロウくんが飛んでいけないはずがないという台詞。

 それを、逆に考えてみる。

 飛んでいけない者がもしいるとすれば。

 それは一体、どんな人間なのだろう――。


 そして、僕の六月五日が終わった。

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