葬送 ⑤’
その日の食卓は、重い空気が流れていた。恐らく、村のどこの食卓でだって、同じような沈黙が降りているのだと僕は思う。
こんな小さな村では、一人ひとりの存在がとても大きなものなのだ。
だから、その一人が欠けたなら……それはとても悲しいことで。
テレビでは、車のリコール問題のニュースなどが読み上げられている。
家族はそれに目を向けてはいるものの、ちゃんと聞いているかどうかは分からなかった。
いや……聞こえてなどいないだろう。
「……ジロウくんは、ちゃんと空に飛んでいけたのかな」
僕がそう呟くと、
「……古い言い伝えか。鳥になるという表現がどうかはともかく……明日には、ゲンキくんが全て終わらせてくれるはずだ」
「まあ、心配しなくても大丈夫だよ、ヒカル。ジロウくんが飛んでいけないはずがないさ」
そんな風に、僕を慰めるような言葉をかけてくれる。
「……うん。ありがとう、お祖父様、お父さん」
僕は力なく笑って、お祖父様と父さんに感謝を告げた。
*
お風呂上がり、僕はそのままベッドに倒れこむ。
今日はあまりにも色々なことがありすぎて、もう何も考えずに眠り込んでしまいたかった。
けれども、暗い部屋で目を閉じれば、浮んでくるのは黒い枠に収まったジロウくんの笑顔。
そして、その下に置かれた棺。空っぽの棺。
どうして……棺に入るべき遺体が、不在だったというのか。
ジロウくんの遺体は、既にどこかへ運ばれたのだろうか。だが、どうして葬儀よりも早く運ばなければならなかったのだろうか。そこに、何か理由があるのだろうか……。それにお祖父様の、明日には全て終わらせてくれるという言い方も、少し気になる。
それに……もう一つ、後から考えて気にかかったことがあった。
父さんの言ったこと。ジロウくんが飛んでいけないはずがないという台詞。
それを、逆に考えてみる。
飛んでいけない者がもしいるとすれば。
それは一体、どんな人間なのだろう――。
そして、僕の六月五日が終わった。
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