葬送 ⑤

「……なあ、父さん」


 夕食の席で、俺は父さんに訊ねてみた。

 心に漂い始めた霧を振り払いたかったのだ。


「俺は入ったことがないし、そもそも子どもが入ること自体許されてないけどさ。共同墓地って、どんな感じになってるんだ?」


 父は一瞬だけ、箸の動きを止めたが、すぐに取り繕って漬物に箸を伸ばす。


「普通だ。亡くなった人たちの墓が並んでいる。それから、近くにはあばら屋もあるな。随分昔は、赤井家は墓守の仕事もしていたんだ」

「そこでお墓の番人みたいなことをしてたってことか……」

「まあ、そういうことだ」


 父さんは、軽く頷く。


「なあ、ジロウくんの墓が出来たら、お参りに行ってもいいかな。それに……早く母さんの墓参りも、したいよ」

「……そうだな」


 考えるような仕草をしてから、父さんは、


「お前が大人になったとき、俺の仕事を継ぐ……そんなことがあれば、そのときには、墓にも自由に入っていいだろう」

「……なんだそりゃ。それまでは駄目ってことかよ」

「ああ。……あそこは、危険なんだ」

「危険、ね……」


 何となく、それは言い訳に過ぎないような気がした。

 俺や他の子どもたちを近づけないための、言い訳。

 だが、それはどうでもいい。

 いずれにせよ、俺は明日、墓地へ行く。

 タロウの頼みを、承諾してしまった以上は。

 ……部屋に戻り、俺は勉強机の前で、ペンをとる。

 交換日記は、だんだんと細かくなってきていた。

 色々と考えさせられることが続いているため、起こったことだけでなく、それに対して自分はどう感じたか、どうしたいかまで書くようになってきていたのだ。それはツバサも同じのようで、俺たちの書く字は少しずつ小さく、また間隔が狭くなってきていた。

 お互いを知っていくこと。それは、甘い時間のときもあるけれど、苦い時間のときだってある。


「……ふう」


 今日もそんな交換日記を書き終わり、布団へと入る。

 明日は学校を休まなきゃな。そんなことを、考えながら。


 そして俺の、六月五日が終わった。

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