鴇村 ④

 授業が全て終了し、終礼の時間になる。今日もいつのまにかこんな時間になっていた、というようなあっという間の半日だった。


「じゃあ、明日も元気で来てくださいね。皆さん、さようなら」

「さようなら」


 朝と同じように元気な声を先生に返し、生徒たちは解散する。

 俺たちはとりあえず、これからどうするかを相談するために、教室の真ん中あたりに集まった。


「日暮れまでは外で遊びたいな、俺は」

「私もー」


 ドッジボールの決着がついていないこともあって、俺とクウは遊びに行きたい気分になっている。

 けれど、ヒカルはちょっと心配げな表情で、


「んー、タロウくんも誘いたいけどなあ。今誘っても、かえって迷惑なだけかな」

「一度誘ってみるよ」


 それで気が紛れればいいし、乗り気になれないならきっぱり断るだろう。迷惑になるかも、なんて考える必要はない。俺は鞄を取って帰ろうとしているタロウの所へ歩み寄っていき、


「タロウ、これからちょっと遊んでかないか?」


 と、あくまでいつもと変わらぬ調子で声を掛けてみた。


「ああ……いや、悪い。今日は遠慮しておくよ。また今度」


 寂しげにはにかむと、タロウは僅かに頭を下げて、俺の前を通り過ぎ、教室から出て行った。

 遊んで忘れよう、とはいかないようだ。


「駄目だったか」

「みたいだね」


 ヒカルが仕方がないと首を振り、クウは全員を見回しながら、


「ううん、どうする?」

「僕は帰ろうかなあ……。タロウが元気になったら、五人で遊ぼうよ」

「うーん、そうしよっか?」


 ヒカルの言葉に、ツバサが賛同の意を示した。どうやら帰る方向に気分が進んでいるらしい。


「仕方ないな、あいつが早く元気出すことを祈るか」

「そうだね。ジロウくんが元気になって、心配することが無くなればいいね」

「うんうん」


 ジロウくんがどんな病状なのかは分からないし、クウに詳しく聞くのも何となく憚られるが。

 一日でも早くその病が治ってほしいと、俺たちは願っている。

 ヒカルとクウは帰る方向が違うので、二人で仲良く帰って行った。

 それじゃあ俺たちも帰ろうか、とツバサを促す。

 そして、歩き出そうとしたときだった。

 大きな影が俺たちを覆い、一瞬で過ぎて行った。

 何だろう、と空を仰ぎ見る。

 そこには――トキがいた。

 一羽じゃない。二羽のトキ。


「あっ……!」


 その姿を見た途端、俺はツバサの手を握り、後を追いかけていた。


「ワ、ワタルくん!?」

「ちょっと一緒に来てくれ、ツバサ!」


 詳しいことを言うと恥ずかしくなってしまうので、俺はそれだけを言い、トキの後を追いかけ始める。

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