第115話 秋の修学旅行…その④

はっさく大福を堪能した俺と天音は、信長、雪音と再び合流した。

信長曰く、因島の「しまなみカレー ルリヲン」も絶品だったらしく、

【パワー充電は完璧であるか!】と、すこぶる意気軒高。

ただ雪音には少々辛すぎたらしく、何だか涙目になっている。

しくしくしている様子…それがまた可愛い…。

合流した俺達は揃って生口大橋を渡り、次の島、生口島…瀬戸田町に向かう。

この島はしまなみ海道の島の中では最も観光業が盛んな島で、

きらびやかな西日光耕三寺、1432年(永亨4年)に建てられた

向上寺国宝三重の塔、日本画家の平山郁夫記念館(彼の出身地が瀬戸田町)、

綺麗な砂浜が売りの海水浴場サンセットビーチなど、見所が数多くある島だ。

割と近場にポイントが多くあるので、この島でポイントを稼ぐ事が

非常に重要になる。


俺達はまず西日光耕三寺にお参りし、早速クイズに失敗して、

4人で瀬戸田音頭を15分間踊った後、耕三寺名物、千仏洞地獄峡に入った。

これは地獄を模した長さ約350メートルの洞窟で、

実はこの洞窟を出た所にも御朱印があったりする。

薄暗い洞窟内には所せましと血の池地獄等の地獄絵図が設置され、

あちこちに古びた大量の地蔵が安置されており、これがまた独特な雰囲気だ。

ただ雪音も天音もこういう【怖い系】は大の苦手な様で、入ってから出るまで

常に悲鳴を上げ続けていた。まあ、この世に再現された地獄だからな。

「うう…大橋殿。こういうのはもう勘弁じゃ…」

雪音はともかく、天音の意外な一面を見た気がする。怖がりだったのか…。

俺と信長は大いに楽しんだのだが…。

信長はこういう地獄絵図付きの古びた地蔵洞窟が偉くお気に召した様で、

「地獄絵図も地蔵も良いのぉ~。また後日ゆっくり来るであるか!」

とのたまわっていた。


その後俺達はふた手に分かれ、俺と天音は平山郁夫記念館、

信長と雪音は向上寺の国宝三重の塔に向かった。

平山郁夫はシルクロードを描いた事で知られる有名な日本画家、

ここには彼の描いた貴重な日本画コレクションが美しく展示されている。

思わず見入ってしまった。

「いかん、いかん、本来の目的を忘れてしまいそうじゃ」

天音に言われて、後ろ髪を引かれながら俺達は記念館を後にする。

それから集合地点の岡哲商店で再び信長達と合流すると、

岡哲商店名物の豚肉たっぷりコロッケをみんなで頬張った。

まったく食ってばかりだな…。


その後美しいサンセットビーチの砂浜を過ぎて多々羅大橋を渡ると、

いよいよ愛媛県に入り、大三島である。大三島と言えば大山祇神社、

ここは全国にある山祇神社(大山祇神社)、山神社の総本社で、

祭神は大山積神(おおやまづみのかみ、おおやまつみのかみ) だ。

山の神、海の神、戦いの神であり、磐長姫命(いわながひめのみこと)と

木花開耶姫命(このはなさくやひめのみこと)の父君である。

古くから戦いの神として崇拝されており、

源氏・平氏をはじめ多くの武将が武具を奉納して武運長久を祈ったため、

国宝・重要文化財の指定をうけた日本の甲冑の約4割が

この神社に集まっているという、なんとも凄い神社だ。


4人で神社にお参りして、おみくじを引いていると、

ひとりの眼を見張る様な、美しい巫女様に声を掛けられた。

「おや、これは雪音と天音ではありませんか。暫く見ない内に

随分大きく、綺麗になりましたね」

その巫女様を見た雪音がびっくりした様な声を上げて、深々とお辞儀した。

「これは開耶(さくや)様ではありませんか!大変ご無沙汰しております。

開耶(さくや)様こそ以前より一層お美しく、お綺麗になったと思います。

お声がけ頂き、感謝の言葉もございません」

天音もいつになく深くお辞儀をしている。

どうやら雪音と天音にとって、とても重要な女性らしい。


「ほら、大橋殿も信長殿もお辞儀せぬか。

今お主らの前にいるのは開耶(さくや)様、

つまり、木花開耶姫命様であらされるぞ」

天音の言葉を聞いて、俺も信長も仰天した。

木花開耶姫命…まんま神様じゃないか…!!


「まあ、まあ、そんなにかしこまらなくても良いですよ。

しかしどうして大三島に来たのですか?」

気さくな笑顔の開耶(さくや)様の問いに、

俺達は今回の修学旅行と、

しまなみ海道御朱印レースのいきさつを話した。


「そうですか…いかにもあの鈴音が考えそうな事ですね。

そんなに急いでは、名所名物の見物も出来ないでしょうに…。

この大三島はいにしえより神の島とも言われ、

大山祇神社の中には、国宝8件、国の重要文化財が76件もありますし、

大三島海事博物館(葉山丸記念館)も素晴らしく、

効能の高い素晴らしい温泉もあります。

大三島名物「インセンス」の、レンガ釜で焼き上げる

ピッツァもとても人気で美味しいですし…。

せっかくなので、この大三島を思いっきり味わっていくと良いでしょう。

御朱印レースの事なら心配無用です。この私が力をお貸ししましょう」


そんな訳で俺達は、開耶(さくや)様の案内で、

大三島をすっかり堪能してしまった。

名所、名物をじっくり見物し、温泉に浸かり、

「インセンス」のレンガ釜焼きピッツァを頬張った。

当然だが、制限時間内にゴールである愛媛今治市の今治城に

到着する見込みは皆無である。16時30分までに到着しなくてはならない所、

16時まで大三島に居たのだから、これはシベリア送りかと思ったが、

最後に大山祇神社で開耶(さくや)様が俺達4人に手をかざすと、

瞬時に俺達の意識は飛び、気が付くと今治城の入り口に立っていた。

狐に摘ままれた気分だが、16時20分に俺達は無事ゴール。

しかも2冊の御朱印状には、様々な御朱印が目一杯押されていた。


「ふっふっふっ。流石は開耶(さくや)様じゃ。

相変わらず素晴らしい神通力じゃのぉ~!」

天音がニコニコ笑っている。

何だかずるをした…いや明らかにずるをしたのだろうが、

女神様の御業により、俺達はこうして

ロシア連邦共和国提供のしまなみ海道御朱印レースに、

ぶっちぎりの優勝を遂げたのだった…。

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