第98話 海と温泉の天国…岩地へ…その④

翌朝、炊き立ての白いホカホカごはんに、自家製の赤味噌の味噌汁、

アジの干物、ひじきにお漬物という、民宿の朝食を頂いた俺達は、

食事を終えるとすぐ準備を整え、おがちんと一緒に海へと繰り出した。

時間は朝の10時頃、空は快晴!絶好の海水浴日和である。


とりあえず浜辺の分かり易そうなところに敷物を敷き、

ビーチパラソルを立てて日焼け止めを塗る。

その内、女性陣も出て来るだろうから、その前にひと泳ぎである。

女子はどうしても時間がかかるから、致し方ない。


実は俺とアレックス岡本は、ある事を試してみたかったのだ。

10分くらいひとしきり泳いで、水に慣れた俺達は、浜茶屋で売られている

フランクフルトを1本づつ買うと、水中マスク、シュノーケル、フィンを付けて、

海へと繰り出す。フランクフルトは手に持ったままだ。

ちなみにおがちんはビーチパラソルのところで一服している。


俺達はそのまま泳ぎ、岩地海水浴場の西の端の方にある岩礁に向かった。

岩礁の傍まで来て、海中を覗くと、岩礁の海藻の間を、

小さな色とりどりの魚が無数に泳いでいる。

俺は早速手に持っているフランクフルトをちぎると、

指で小さな肉片になる様に揉みほぐし、海中に流してみる。

と、見る間に無数の小魚が集まってきて、

フランクフルトの欠片を我先に食べ始めた。予想通りだ。

これが何とも可愛らしい。【これは中々愉快だ!】、

と思っていると、10㎝くらいの割と大きめの魚が、

直接フランクフルトめがけてアタックして来た。食いしん坊な奴だ!

暫し、フランクフルトを巡る、俺と魚の水中攻防戦が開始される。

魚があんまりしつこいので、俺はとりあえず、

海上に顔とフランクフルトを出した。

フィンを付けているから、手を使わなくても、

余裕で立ち泳ぎが出来るのだ。

【こいつら、どんだけ飢えてるんだよ!】

暫くして顔を上げてきたアレックスに言うと、

【こりゃ、面白いかしらん!】

と、あいつもご満悦な様子だ。シュノーケリングしながら、

こういう遊びが出来る海や砂浜は、東京近郊では稀に違いない。

暫く岩礁で魚の餌付けをして楽しんだ俺達は、

フランクフルトが無くなった所で、砂浜へと戻った。


戻るとタイミング良く、ちょうど女性陣が浜辺にやって来た所である。

全員眼福のビキニ姿…特に金髪碧眼の美少女、リーリャがとても目立っている。

元々岩地の海水浴場はマイナーな場所で、日本人でも知る人は僅か、

故に、ここで白人なんてまず目にしないから、そりゃあ目立つ。

周囲の目が一斉に、この女性陣達に集まっているのがわかった。

只でさえ美しい八百比丘尼、それも美少女ロシア人…が、

これ見よがしの黄色のビキニで決めてはしゃいでいるのだ。

鈴音先生も負けじとしっかり食い込んだ白に花柄のビキニだし、

すらりとしながらも、出る所はしっかり出ているさな子さんの

スタイルも素晴らしい。ビキニは水色に花柄である。


「おお~!!これは眼福、眼福!皆さん、素晴らしいッスよ!」

おがちんがはしゃいでいる。もちろん、俺達もだ。


「オオ~!これが日本の海デスカ!初めてミマシタ!トテモ綺麗!感激デス!」

リーリャが歓声を上げた。

「いつもながらの素敵な海ですね!さあ、みんなで早速ひと泳ぎしましょうか!」

鈴音先生のかけ声で、みんなで海へと向かう。


浮き輪を使って泳いでいる雪音、それを押して泳ぐ天音。笑顔が素敵だ。

鈴音先生とさな子さん、それからリーリャはとても綺麗な平泳ぎで、

スムーズに沖へと出て行く。

「リーリャって、泳げるんだ」俺が聞くと、

「ワタシはロシアではプールで良く泳いでイマシタ。泳ぎは得意デスヨ!」


泳ぎの実力は、平泳ぎを見ると簡単にわかる。

水泳には色々な泳法があるが、実は平泳ぎが一番難しいのだ。

水の抵抗を上手くかき分け、綺麗なキックでスムーズな平泳ぎが

出来る人は、泳ぎの上級者だと見て良い。

見た感じ、一番上手いのは鈴音先生とリーリャ、ついでさな子さん。

おがちんのひら泳ぎは我流で、進みが悪いから、素人だな…(笑)。

鈴音先生の直伝か、天音も上手い。

雪音はまあ、まだまだ、これから覚えるという感じ。

でも、海で泳ぐ事自体は好きそうなので、じきに上手くなるだろう。

好きこそものの上手なれ…これは泳ぎにこそ一番当てはまる。


ひとしきりみんなで楽しく泳ぎ、浜辺に戻ってひと休みするともうお昼時。

早速浜茶屋に繰り出し、みんなでB級グルメに舌鼓を打つ。

今日入った浜茶屋は、お好み焼きが絶品。泳いで空いたお腹だと、

いくらでも入りそうな気がする。それからイカ焼きも美味い!


「旨いのう!旨すぎる!!」

昨日から何回この天音の言葉を聞いた事だろう。

「こりゃあ、別嬪なお嬢ちゃん達だ。

これはおっちゃんからのサービスだ。明日も来ておくれ」

剥げた頭に手ぬぐいを巻いた、気の良さそうな色黒の浜茶屋のおっちゃんが、

全員にかき氷をサービスしてくれた。

「お嬢ちゃんだなんて…店主、明日も来るとしましょう!」

鈴音先生は嬉しそうだ。


お腹が一杯になって、暫く休むと、

午後からはみんなで定番の遊び。スイカ割りである。

目隠しをしてからスイカをあらぬ場所に置き、言葉で誘導する。

誘導役の鈴音先生は、女子の番になると、

「雪音、スイカは3時の方向、方位角90度、距離ふたまる」

などと、非常に的確なアドバイスをするくせに、俺達の番になると、

「はい、大橋君、手のなる方へ、こっちよ、こっち」

と、非常に適当だ。おかげで男衆はみんな大外れ。

「鈴音先生、ずるいッス」

一番はずれの大きかったおがちんが抗議すると、

「だって、一番はずれの大きかった人が砂に埋められる約束でしょう?

女の子には優しくするものですよ」と、涼しい顔だ。


その後、全員で砂浜に大きな穴を掘り、そこにおがちんを入れ、

上から起き上がれない程の大量の砂を乗せる。

顔と足の裏だけ出して、大量の砂に埋もれた哀れなおがちん。

その後、みんなに足の裏をくすぐられるが、誰にくすぐられて

いるかは、大きな砂山に遮られて見えない状態。

くすぐられる度に、【うが~~】、

と叫び声を上げているのが面白かった。

無論、俺達も大いにくすぐらせて貰った(笑)。

鈴音先生は、おがちんの顔にマジックでらくがきしている…。


その後は、またみんなで泳いだり、軽くビーチバレーを

してみたりで、夕方近くまで楽しく過ごした。

その後、例の温泉船で海水や汚れを落とし、

夕方から昨日と同様、無論、メニューは異なるが、

豪華な海鮮料理のフルコースを楽しんだ。


食事が終わったところで、おがちんが言った。

「持って来た花火は最終日にやるとして、

今日の夜は風呂から上がったら、全員男部屋に集合するのだ。

夏の夜と言えば、やはりあれをやらねばならん」


「あれって、なんですか?」

雪音が質問すると、

「怪談!怖いはなしに決まってるぞ!」

と、おがちんがニヤニヤしながら言った。


「それは何か良いネタがありそうですね!是非聞かせて頂きましょう!」

このノリノリの鈴音先生の一言で、俺達はその夜、

おがちんの怪談話を聞く事になったのである…。



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