第73話 クレオパトラ、お金から見た国家の盛衰を語る…その②
スペインは、無敵艦隊などというものを作ってレパントの海戦で
オスマンを破ったまでは良かったが、この分不相応な艦隊の維持費に
天文学的な金がかかった。
しかも船は全てオランダ製(当時はスペイン領)…
自国で軍船を作れぬ海軍が強いと思うか?
実際、南米諸国から送られてくる銀を満載した船の多くは、
イギリス私掠船(海賊)の餌食になった。
イギリスフランス相手に年中戦争したのも金銭面で痛かった。
更には頑固なカトリック国での、オランダのプロテスタントを迫害したから、
怒ったオランダがスペインから独立した。
当時のオランダはプロテスタントが大半じゃったからな。
この時代、オランダはヨーロッパの金融の中心での、ここからの税収が
なくなるのは、スペインの税収の25%がなくなる様なものじゃった。
徴税も請負人制じゃから不正が蔓延った。
結果、金がなくなったスペイン王国は、民に高額な消費税をかけた。
今の日本の消費税とは違い、卸、小売りを問わず、
全ての取引に消費税をかけるという、酷いものじゃ。
重い課税の結果、スペインの産物はどれもこれも高価になって
国際競争力を失い、安い輸入品だらけとなったスペインは、
国際収支が悪化して破産した…。
これ以降、スペインが国際舞台で主役になる事はないの。
国家の勃興→官僚の腐敗(戦争)→徴税減少/重税化→国際収支悪化→破産じゃな。
これ以降はイギリスが勃興する。
イギリスは1215年に成立したマグナ・カルタで、王の徴税権に制限をかけていた
おかげで極端な重税にはならず、他国より産業が発展した。
それと超策士のエリザベス女王が国策としての海賊行為を奨励して、
スペイン船を拿捕しまくり、金銀財宝を略奪した。
これに怒って攻めて来たスペインの無敵艦隊を、海賊ドレークの奇策で粉砕した。
アフリカやインド、アメリカ大陸の奴隷をそこら中に売りまくり、
自分でもこき使った。
戦争に勝ったイギリスは、スペインの利権を分捕って豊かになったのじゃ。
イギリスは歴史的に見れば海賊国家、奴隷と死の商人であり、
資本主義の権化じゃ。その子供のアメリカも似た様なものじゃな。
19世紀初頭にその覇権を奪おうとしたのがフランスよ。
フランス革命の原因は、フランスの富の90%を僅か3%の貴族が
保有するという、極端な富の偏在が原因じゃが、革命の結果
フランスは、世界で初めて徴兵制を導入、18歳から25歳の
男を全て徴兵出来る様にして、安く強力な常備軍を手に入れ、
ヨーロッパを席巻する。
傭兵と違って徴兵は強制じゃから僅かな金で常備軍を作れる。
革命で国民国家の意識が芽生えた事も大きかった。
自分の国は自分で守るという意識じゃな。
そこに軍事の天才ナポレオンが登場したものじゃから、
周辺国は連戦連敗となった訳じゃ。
しかしのう、ナポレオンは金融や税制にはド素人でな。
当時金融資本の中心地だったオランダに、
高圧的な姿勢で徴税しようとしたものじゃから、
資本家が全部ロンドンに逃げての。これが今のシティーの始まりじゃ。
挙句大陸封鎖令とか出して、金や物の流れも止めてしまった。
税収は金や物の流れからのピンハネが大事という事が全くわかっておらぬ。
戦争続きで金はいくらでもいると言うのにのう。
結果金がなくなったフランスはデフォルトする。
その後は植民地を売却したり、悪名高い塩税とか作って
重税策を取ったあげく、民の支持を失ったナポレオンは戦に敗れ、
失脚するという訳じゃ。
フランスも、これ以降、世界史を動かす様な国家とは言えなくなったの。
それと前述のオスマントルコも結局古代エジプトと同じ流れを辿って
没落した。官僚の腐敗→徴税の減少→戦争での敗北→重税→崩壊
という流れじゃな。まあ、何だかんだ6百年以上続いた故、
かなり頑張った方じゃろう。
中国の歴代王朝も大体似た様な流れで滅びておる。
さて、19世紀までの話をしたが、今まで説明してきた法則、
国家の勃興→官僚の腐敗→徴税減少/重税化→民の反乱…経済の崩壊。
これは21世紀になっても同じなのか?これは非常に面白い研究テーマじゃ。
今は複雑怪奇な金融商品がデジタル化して世界中を瞬時に飛び交う時代、
19世紀とは随分違うでな。
これから日本を背負うお主達はどの様な選択をするのかのう。
わらわの見る限り、今の日本は重税化まっしぐらの様に見えるが、
生かした金の使い方をせねば、過去の歴史の二の舞やも知れぬ。
今日の授業は、故にかのオットー・フォン・ビスマルク閣下の
金言をお主達に与えて終えるとしよう。
【愚か者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ】とな」
ここで授業の終了を告げるチャイムがなった。
「愚か者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶか…
生きた金の使い道とは何か?奥が深いな…」
岩崎弥太郎がしきりに首を縦に振っている。
それを見ながら俺は、こんな顔の濃い奴は、やはり大物なのだろうか?
と、全く別の思索にふけるのだった…。
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