第24話 夏の天の川…その③

太陽望遠鏡での観望を終えると俺たちは部屋に戻った。

古風かつ和風な部屋は、古い日本旅館特有の独特な匂いがする。

窓の外に見える景色も夏の草木や花が茂る美しいもので、

心が洗われる様だ。そしてこれからはお待ちかねの温泉タイムである。

緒賀ちん、俺、アレックス岡本は、茶菓子を食べてお茶をすすると、

早速浴衣に着替え、源泉かけ流しの名物温泉へと向かう。

途中、同じように温泉へ向かう鈴音先生と如月姉妹に出会った。

3人ともピンクの女性用浴衣に着替えているが、

いやはや、その可愛らしさ、白い肌の美しさ、

若い女性特有の醸し出す愛らしさ、本当に目の保養、

これを見るだけでもここに来た甲斐があると思った。


「お~!鈴音先生達もこれから温泉ッスか?」

緒賀ちんが尋ねると、

「はい、そうです。ここの温泉は非常に効能があると聞いたので、

楽しみにしています」

鈴音先生が明るい表情で答える。

「って、どっちが雪音さんで、どっちが天音さん?」

アレックス岡本が言った。

俺もびっくりしながらふたりを見つめた。

これから温泉に入いるからであろう、

天音はポニーテールの髪留めを外している。

つまりこの姉妹は、今、全く同じ髪型で同じ浴衣を着ている。


【嘘だろ?全然見分けがつかない…】

いくら一卵性の双子と言っても、これくらいの歳になると多少は

外見の違いが出て来るものだが、このふたりに限っては、

どんなに見ても違いがわからない。

「私が雪音ですよ」…。

雪音がそう言うと…

「お前、天音だな…」

と緒賀ちんが言った。

「え~~なんでわかったのかの?」

口調が変わるとすぐ天音だとわかる。天音は少し残念そうな表情をしている。

「雪音は諸事控えめだから、こういう時に一番に声をあげたりはしない。

だからお前は天音だとわかったのだ…」

「ふ~ん、残念じゃ。少し驚かそうと思ったのじゃがな…。

上手く化けると大抵の人は区別がつかん。私は雪音姉様の真似をさせると、

天下一品じゃし…。それを見破るとはお主出来るな…!」


それを聞いた緒賀ちんはカッカと笑うと、

「馬鹿言ってないでとっとと風呂に行くぞ。

その後はお楽しみの豪華料理が待っている!」

と言いながら風呂の方に向かって歩き出した。

「そうじゃな。お風呂も楽しみじゃし、夕餉も楽しみじゃ…」

天音はそう言うと雪音と手を繋いで歩きだした。

ふりふりお尻を揺らしながら歩く可愛い後ろ姿を見ながら、

【ああ~この光景もいいなぁ~】

と、俺は感動するのだった。

そして小さな体ながら、この姉妹が意外と良いプロポーションを

している事に改めて気づくのあった。


さて、それから俺たち3人は男湯に入る。

脱衣所で浴衣を脱ぎ、タオルを片手に浴場の中に入ると、

まず軽く体を石鹸で洗ってシャワーで流し、

いそいそと名物の源泉かけ流し露天風呂へ向かった。

その露天風呂は、見た瞬間、普通の温泉とはまったく違うという事がわかる。

温泉自体の色が茶色なのだ。そうしてあまり嗅いだことのない独特の匂いが漂う。

俺はそそくさと温泉に入る。その瞬間、鼻に独特な強い鉄の香りがした。

「ここの温泉の色が焦げ茶色というか、茶色なのは、

土が混じっているんじゃなくて、

温泉に豊富に含まれている鉄分が空気と反応して酸化する為だ。

ここの温泉は鉄分やミネラルが非常に豊富で、源泉の温度が比較的低い。

じっくり浸かる事で体が芯から温まり、五臓六腑を癒すのだ…」

緒賀ちんが早速解説してくれた。


【ふ~~!、極楽、極楽!】

俺は首まで温泉につかり、日本庭園風の温泉の庭を眺めながら、

しばし悦にひたった。

【いや~、もうこの世の事なんてどうでも良くなるよなあ~!】

と思いつつ周りを見渡す。元々小さな一軒家の温泉なので、

今温泉に入って居るのは俺たち3人の他には数人いる程度だ。

夕暮れ時の独特な雰囲気が辺りを包んでいる。

【カカカカ…】ひぐらしの鳴く声が本当に心地よい。


「おっさん、青春じゃのぉ~!」アレックス岡本がしみじみとつぶやく。

「うむ、夕日に向かって走りながら、叫びたい気分だな…」

「しかり、しかり…」

こいつの変な日本語も、こういう時に聞くと妙に趣き深く感じるから不思議だ。

俺たちしばしじっくりと無言で温泉を堪能する。

星を見るのも良いが、こういう静かな日本の温泉旅館で、

仲間達とゆるゆる過ごす時間というのは、本当に最高のひと時だ。

こういう所なら何度来てもいい、

いや、また是非みんなで来ようと俺は心から思った。


さて、風呂から上がって部屋に戻ると、暫くして天音がやって来た。

「緒賀先生、夜は天体観望故、少し早めに夕餉に参ろうではないか!」

天音はうきうきとした表情をしている。

「おお!そうだな。時間も丁度良い。では早速向かうとするか」

俺たち3人と天音は部屋を出ると、しばらく行った先にある

女部屋で鈴音先生と雪音を誘い、食事処に向かった。


食事は食事処にある個室に料理を運んできてくれるスタイルだ。

囲炉裏形式になっている個室入ると、しばらくして、

これでもかというくらい、豪華な食事が次から次へと運ばれてくる。

前菜から始まり、鯉の刺身、カツオの刺身、ゆば、汁物、茶碗蒸し、

煮物、天ぷら、アユの塩焼き…。

そしてメインディッシュは飛騨牛のステーキ。

「旨いのう!旨過ぎる!」天音が歓声を上げている。

「とっても美味しいです…」雪音もとても嬉しそうだ。

緒賀ちんと鈴音先生はビールで乾杯した後、

日本酒を注文してちびりちびりとやり始めた。


【おいおい、緒賀ちん、もう天体観望なんか

どうでも良くなってるんじゃないのか?】

【少しお酒の入った浴衣姿の鈴音先生って、可愛い上になまめかしいなぁ~】

と俺が思っていると、

「おい、パストリアス大橋、もう天体観望なんてどうでも良いと

俺が思っていると思っただろ?」と、緒賀ちんが言った。

「図星だ!と言いたい所だが、俺も一応教師だ。

酒は問題ない程度に留めておくから

安心しろ。それに観望場所までは歩いていけるしな」

緒賀ちんはカッカと笑っている。

「まあ、まあ。俺も緒賀先生は信用してますから…」

俺はそう言ってお茶を濁した。

鈴音先生の横では如月姉妹が舌鼓を打ちながら、

キャッキャと楽しそうに食事を続けている。

【可愛い。この光景最高!】

腹がはち切れんばかりに食事を堪能した俺は、

こんな姉妹が家にゐたらなぁ~と心から思うのだった。


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